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猫と私と、もう1人のネコのPikKaのレビュー・感想・評価

猫と私と、もう1人のネコ(2024年製作の映画)
4.8
吉名莉瑠さん(主人公)、一青窈さん(主人公の母親役)、祝大輔監督の舞台挨拶付き上映を鑑賞しました。

本作は近年社会問題化してきたヤングケアラーという、未成年者が本来の役割を超えて自分の生活や感情に蓋をしてまでも家族などの世話をすることについてのリアル、子どもたちの声、彼らを取り巻く様々な立場の人たちにも焦点を当てています。

両親の問題、母の性格、そんな母の突然の介護、学業、進路、野良猫問題…

それを高校生の櫻がひとりで抱え込み、追い詰められていく過程。
同世代の子たちがはしゃぎながら楽しんで遊んでいる様子を見る、対照的な櫻の姿。
疲弊感。

私はヤングケアラーとまではいきませんが子どもの頃から祖父母と同居で介護していたり、ひとりっ子で父の不在(時々会える程度)、そして今で言う毒親にある母を持つので、本作の主人公である櫻の立場や視点がリアルに感じられて引き込まれました。

こういうテーマだと、今の世の中に物申す!みたいな説教くささや押し付けのようなものになりがちでは?と思っていたけど、いざ観てみるとそういう圧や堅苦しさがまったくなく、いろいろと考えさせてもらいながら共感やせつなさや愛おしさ、未来への希望に溢れたやさしい世界でした。

また、保護猫活動にも焦点を当てていることも良かったです。

我が家にも保護犬、保護猫がいます。

施設は駆け込み寺ではない、保護して預けて終わりではなく、その猫の後のこと、責任問題にもハッキリ真っ直ぐに伝えられていることも好感的でした。

そして保護猫を通して施設の人たちとの交流、おとなたちが櫻が抱えている状況、櫻の声をしっかり聞く姿勢も良かったです。

キャストの皆さんの演技も素晴らしく、それぞれがそれぞれの役とじっくり向き合い、他の役とも向き合われているので冒頭から引き込まれてあっという間の時間でした。

バリバリ働くキャリアウーマンで妻であり思春期の娘を持ちながら突然の病に倒れてしまうという役どころを演じた一青窈さん。
歌手であり女優でもある一青さんは10代半ばまでに御両親を亡くし、そういったきっかけもあって歌手デビュー前から障がい者向けの雑誌の編集部で働いていたり病院や施設などを回って音楽を届ける取り組みをされています。
多才で独自な視点、感性を持つ一青さんならではの病への向き合い方、普段から接しているからこそのリアルな演技などにも引き込まれます。

最初は毒親でもあるのですが、それがひたすら寂しさからくるものだと分かる場面からグッと切なく、愛おしくも思えます。

そしてそんな母を、自身の進路に悩む思春期の娘ながらひとりで支えた櫻役を演じられた吉名莉瑠さん。
実は本作で初めて知った女優さんなのですが、櫻への向き合い方、リアル世代だからこその想い、誰にでも突然起こりうる状況への捉え方、役作りなどを舞台挨拶で丁寧にしっかり話してくださいました。
櫻を演じる吉名さんの演技、本当に自然体で臨場感がありました。

櫻が抱えていた想いを遂に母にぶつける場面は圧巻で心が震えた。

人と繋がること、ちゃんと声を上げること、向き合う相手の心の声をしっかり汲み取る必要、我が子であれ所有物ではなく自分と同じように感情や人生があること、人を頼ることは恥ずべきことでも弱さでもなく大事なことだということ、不器用でも互いに心をさらけ出して真っ直ぐに相手と向き合うことの大切さと愛おしさが詰まった作品。

子どもでいられる時間は長いようで短い。
あっという間に大人になり社会に出る。
社会に出ると可能性や希望だけでなく、不条理なこと、どうにもできないこと、やるせないこともやってくる。
人によっては生きづらさにも直面する。

だからこそ。
人が人を思いやる気持ちが必要。
人と人との繋がりや見守りが必要。

どうか、世の中の子どもが子どもらしくいられますように。
しっかりと “今” を自分のペースで無理なく歩めますように。

この作品が持つテーマと世界観、メッセージに触れ、この作品が作られたことと観ることができたこと、本当に良かったなと観賞後の今もまだしみじみ感じています。
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