6月13日まで恵比寿ガーデンシネマで開催されているアイルランド映画祭で観ることができました。このアイルランド映画祭は先月から開催されていて日本初公開の作品もそこそこあって興味深いイベントだったのだがスケジュール的な問題で俺が観られたのは本作『あのボートに乗って』と同時上映の短編『レイト・アフタヌーン』のみであった。他にも観たい作品はいくつかあったので悔しい。是非どこかの名画座(下高井戸シネマ希望)で延長戦をやってくれないだろうか。
という俺の願望はとりあえず置いといて映画の感想にいくと、これがなんというか何とも言えねぇなー、という感じの映画であった。先に断っておくとつまんなかったわけではない。どっちかというと映画の出来自体は平均的な水準以上ではあると思う。本作が面白かったというには些かにも躊躇なく言えるくらいに面白い映画ではあった。じゃあその奥歯に物が挟まったような物言いは何なんだよ! と言われそうだが、なんて言うんすかね、まぁ一言で言ったら無難オブ無難な映画でそれ以上のものは特になかったなーという作品だったんですよね。
その説明も兼ねてあらすじ紹介。アイルランド映画祭で上映されるだけあって当然舞台はアイルランドなのだがダブリンのような都会ではなくて海辺の田舎町が舞台。主人公は多分30代半ばくらいの女性でダブリンでコンサルか何かの仕事をしているいわゆる勝ち組的なキャリアウーマンなのだが、父親が心臓発作で倒れたという報せを聞いて久しぶりに海辺の田舎町に帰って来たのであった。父は命に別状はなく良かった良かったなのだが、ガッツリ2カ月くらいの長期休暇を取って帰省したものの10代の頃に母を失ってからというもの父親とはぎくしゃくした関係で家の中では落ち着かず、かといって今さら田舎町の空気にも馴染めない。そんな折、学生時代にアイルランド発祥の手漕ぎボート競技であるネイヴォーグで青春を共にした旧友たちと再会。今でもボートの大会に出てる友人チームの一員になり地方大会の優勝を目指すことになる…というものです。
ボート競技がアイルランド要素として個性を出してはいるものの、いわゆるどストレートな帰郷モノと父娘モノのヒューマンドラマでこういうの今まで死ぬほど観たわっていう印象を越えるものではなかったんですよね。なのでぶっちゃけ父娘モノの無難なヒューマンドラマという外はなくそれ以上のものも特にない、という印象の映画だったと言わざるを得ないのだ。しかしそれでいくと最近観た映画の中ではジャッキー・チェンの『ライド・オン』も似たような題材の作品で、本作は『ライド・オン』でいうところの娘側の視点の物語という観方もできると思うのだが、色々と要素を入れすぎてとっ散らかっていた印象の『ライド・オン』と比べれば本作はドラマの焦点をグッと絞って娘と父と早逝した母親を中心に据えていたので物語の出来としてはこちらの方が良かったと思う。スコア上で『ライド・オン』の方が0.1ポイントだけ勝っているのはあれですね、ジャッキー補正ということですね。でもその補正を除けば本作の方が不器用な父娘のぎくしゃくストーリーとしてはよくまとまっていたと思いますよ。
ボート競技に関してはよく知らんし、従って思い入れも特にないのでこれまた何とも言い難いところはあるがあくまでも本筋は主人公と父の物語であってボートはアイルランド要素のモチーフという点に留まっていたのが作品のバランス的に良かったと思いますね。アイルランド要素といえばちょっとびっくりしたのが映画が始まると英語の字幕が出てきてそれとは別に日本語字幕があったので、これ多分アイルランド語(ゲール語)の映画なんですよね。地元の伝統的なボートレースを題材にしてるってのもきっと地元振興映画的な側面もあるんだろうな。俺はアイルランドというとジェイムズ・ジョイスとサッカーとアイリッシュパブと「チーフタンズ」の音楽くらいしか思いつかないけど派手さはないけどアイルランドの田舎の感じがグッとくる描写は多くてそこは特筆できるところとして良かったですね。あと自然が素晴らしい。背景を観てるだけでもため息が出る映画ではありました。本場のアイリッシュパブの描写も良くて一回行ってみたいなーとも思いましたね。
まぁそういうアイルランドよいとこ一度はおいで、な部分はよく描かれていたんじゃないでしょうか。映画としてはそこまですげぇ作品って感じでもなかったけどある種のツーリズム映画としては完成度高いかもですね。あと曇り空が多めな景色も良かったな。海から見える稜線とか海辺の町の雰囲気が好きなら没入できると思いますね。