この『デッドストリーム』という映画は8月16日からの上映なのだがその一カ月くらい前にやっていたカリコレというイベントで一足早く公開されていたんですよ。そして個人的にも観ようと思えば日時の合う回が2回くらいはあったと思うのだがスルーしていたのである。
だってね、あらすじ紹介を兼ねて内容を書くと、主人公は炎上系配信者として大人気のショーンという30代くらいのおっさんなんだけど、人種差別とかホームレスをバカにするみたいな過激企画が原因でアカウントを停止されてスポンサーに見捨てられてしまう。配信者としてどん底へと落ちたショーンはスポンサーとファンを取り戻すために復帰企画としてある幽霊が出るという廃墟でのライブのホラー配信を決行するのであった…というもの。
俺がカリコレではもちろん、通常に劇場公開されてからもスルーしてた気持ちも分かるでしょう? またこの手の類の映画かよ、もういいよと思ったわけですよ。だってこの手の迷惑系ユーチューバーが主人公で承認欲求に狂わされて度を越えた狂気の世界に突っ込んでいくみたいなホラー映画とかここ数年でめっちゃ観た気がするもん。ぱっと思いついたのでも『スプリー』とか『ダッシュカム』とか『シークレットマツシタ』とか『ザ・ディープハウス』とか、同じくカリコレで先行公開されて現在劇場公開中の『スージー・サーチ』なんかも似たようなネタの映画である。主題がユーチューバーのPOVホラーというわけではないが、清水崇が数年前に展開していた村シリーズも映画の冒頭で最初に犠牲になる役どころとして迷惑ユーチューバーがやたら多用されていた。その手の映画というのはレンタルとか配信スルーのものとかも含めて本格的に探せばもっとあるのではないだろうか。
いやだからね、こんなの映画を、特にホラー系をそれなりによく観てる人ならあらすじをざっと見ただけで期待するわけないんですよ。またそのネタかよ、もういいよ、ってなったのはきっと俺だけではないはずだ。でもね…面白かったんですよ。いや、かなり面白かったなこれは。その手があったか~~!! と死角を突かれたような感じでめっちゃ笑ってしまった。
まぁめっちゃ笑ってしまったとか書いてる時点で何となく分かるだろうけど、そんなに真面目なホラー映画というわけではない。嫌われ者のジャンプスケア演出もいいタイミングで上手く使いつつ、ピンポイントで怖い部分も結構あるのだがメインはホラーというよりもホラー風コメディだと思いましたね。というのもね、本作は上記したように散々繰り返し擦られまくった設定の迷惑ユーチューバー系のホラーものなのだが、その設定を上手く使ってメタホラー的な演出が随所にあって、それがまた冴えているんですよ。
例えば主人公は自他ともに認めるビビリなのですぐに心が折れても逃げられないように車のエンジンの点火プラグを抜いてその辺の雑木林に投げ捨ててしまう。また舞台となる幽霊屋敷の玄関の鍵も自分で厳重に施錠して逃げることができないように自分を追い込んでいくんですよね。これはテレビゲームで例えたらいわゆる縛りプレイと呼ばれるものに似ていて、アイテムを使わずにクリアするとかノーセーブでクリアするとかというゲーム内のルールでは特に禁じられていないものを自分の裁量で個人的に禁ずるといったものに近いと思うんだが、要はそれってゲームの世界から一歩身を引いた現実の視点からのルール変更なんですよね。それがこの映画にもたらしている演出効果としては、いわゆるホラー映画のあるあるネタに対するメタ的なツッコミを含めた上でのボケになるのである。
例えばホラー映画にありがちなシーンといえばゾンビとか化け物から逃げるために車に乗り込んだは良いものの中々エンジンがかからなくて周囲を化け物に取り囲まれる、というのがある。ホラー映画をたくさん観ている人ほど、毎回そんなに都合よくエンジンかからないのおかしいだろ、って苦笑しながらツッコミつつ、それと同時にあるあるネタとしてそういう展開を楽しんでいると思う。だが本作では主人公が自ら縛りプレイでもしているかのように、自分自身で退路を断つかのように、そのようなあるある展開を引き起こす必然性に説得力を持たせる行動を取るのである。これはちょっと今まで見たことがない逆転の発想だったな。しかも炎上系の迷惑ユーチューバーという設定がそこに活きてきていて、要するにコイツはバカだからこういうことしそうだよなー、という説得力がこれ以上ないほどにあるのである。
これはもうアイデアの勝利って感じでしたね。ごく序盤のガチホラーっぽい箇所を除いて全編そんな感じなんだからそりゃ笑っちゃうよ。とにかく同接数しか考えてないようなロクでもないクソ野郎だからどんな酷い目に遭っても同情せずに笑えるし、後半そんなところにもカメラを!? っていう行動にもコイツならやりかねんな…という嫌な説得力があるのである。死にそうなのにカメラを回し続けてる問題とかはガチホラーとして受け入れられてる『女神の継承』とかでもほとんどギャグみたいに扱われてたけど、本作は最初っからメタ視点でネタにしてるんだから説得力という点では他の追随を許さないですよ。
これは爆笑しながら観ちゃったな。他にも主人公の視聴者層がクソガキしかいないところとか、後半の著作権ネタ(ここは超面白かったからネタバレなしで観てほしい)のところとかとにかく最高でしたね。それでいて基本コメディなのにオバケの造形とかたまに入ってくるガチでびっくりするホラーシーンとかの出来もいいので、これはかなり真面目に掘り出し物の映画でしたね。
まぁホラー映画感は本当に冒頭だけで後は完全に笑わせに来てるけど、狙い通りに笑ってしまったので上手い映画ですよ。とにかく映画全体の演出の方向性とその微妙なコントロールが上手い映画でしたね。かなり監督の意図通りにしてやられたと思う。多分『ウィリーズ・ワンダーランド』みたいに配信で来たら局地的に結構バズるんじゃないかな。
いやー、全く期待してなかったというのもあるけど思いがけぬ面白さがある映画で良かったですね。面白かった!