ファスビンダーの真骨頂だな。というかゲイカップルたちが当たり前のように社会に存在している。友好的な反応ではない場面もあるが差別や偏見の対象としては描かれない。本作でファスビンダーは初めてゲイを直接的に描いたとのことだが、ゲイであることそのものを題材としていないところに彼の鋭敏な先見性を感じる。そしてファスビンダー本人が主役(フランツ・ビーバーコップという名は『ベルリン・アレクサンダー広場』主人公の名前でもあった)しかも徹底的に貶められる無教養で短絡的なクズの役という、マゾヒズム(というか自己に対するサディズムか)を通り越し自分自身をも冷徹に客体として扱う姿勢に驚く。無教養で短絡的だが真に愛そうとしている、愛しているという幻想かもしれないが、という役。ここでの差別の対象は階級。労働者階級とブルジョワの違いを徹底的に戯画的に見せつける。先日見たYouTube某チャンネルで村上隆が「金持ちには共通言語としての文化芸術の教養が必須で、どんな無学の成金でもそれなりのアドバイザーを得て文化芸術の知識や感覚を身につけている」というようなことを言ってたのを思い出した。でありながら金策に困った社長子息はフランツ・ビーバーコップのロト懸賞金に目をつけるというのが肝となる。地下街に倒れたフランツ・ビーバーコップの死体から金目のものをすべて剥ぎ取るのも、移民の子や貧しそうな子ではなくいいとこの坊ちゃん風白人系という。
イングリット・カーフェンとペーター・カーンの『ラ・パロマ』コンビが揃う。また『不安は魂を食いつくす』のエル・へディ・ベン・サレムも出ている。