ジョージア映画祭1本目。
やー、面白かったですよ。この数年でイオセリアーニにハマってほぼ全作品を観ていたのでジョージア映画へのイメージも何となく出来上がっていたが本作もそのイメージに準じた感じの作品だったなぁと思います。どんな感じかとというと緩くてヘンテコでありつつも反骨心が強いといった感じだろうか。この『奇人たち』もタイトル通りに変な人がいっぱい出てくる愉快な映画だったが、単なる荒唐無稽なコメディというだけでなく自由への希求を強く感じる映画でした。
簡単にあらすじを紹介するというのも難しい映画で、それというのも寓話性が高く実に奇天烈で予測不能な展開が続くのでこういう感じの映画です、と一般化するのが困難なんですよね。それでも頑張ってあらすじをまとめてみると、あらゆる人に借りを作ってたおっさんが冒頭で死亡して、主人公であるその息子は父の借りを全部返して無一文になり旅に出たら夫が出征している人妻に出会ってその人に恋をして、色々あってその後に憲兵が威張っている町の牢屋に入る事になるのだがそこで同じ独房にいた空を飛ぶことを夢見る発明家? のジジイと意気投合して脱獄しようとするお話です。いやー、何も間違っていないはずなんだがホント意味分からんお話だよな。
まぁでもそこは1973年のソ連体制下のジョージアで作られた映画ということもあり、恐らくだがストレートな分かりやすい作風にすることができなかったというところもあるのではないだろうかと思う。そこのところはパリに行く前のイオセリアーニ作品でも色々と察することができたので本作でもかなり迂遠な形でしか監督の言いたいことを言えなかったのであろう。
じゃあこんなよく分からん展開ばかりのお話しで監督は何を言いたかったんだよ? というところだが、感想文の最初に雑感として書いた“自由への希求を強く感じる”という部分が肝になっている物語なのだと思う。まず第一に主人公は親の負の遺産を受け継ぐところから始まるというのも1921年にロシア帝国からソ連への過渡期の内戦中に占領されてソ連を構成するいわゆる衛星国的な立場になってしまっていたことと無関係ではないと思う。本作はそのかつてのロシア帝国であるソ連邦から解放されたいという思いが根底にある映画なんじゃないだろうか。
そう思うと一見荒唐無稽にしか見えない憲兵が幅を利かせる町の刑務所に幽閉されるとか、空を飛ぶとかいうモチーフも腑に落ちる気がする。夫が出征している妻というのはイマイチピンと来なかったが、彼女の衣装が豊満な胸元をざっくりと開いた感じのものになっているのは何となくソ連的なイメージではなかったので、そういう性的なものの開放というニュアンスがあったのかもしれない。そういう目線で見ると、まぁ総じて当時のソ連への体制批判が根本にある映画って感じなのだが、特に本作がえらいな~、と思うのはそういう批評性も含めた上で個々の描写はギャグっぽい感じになってるのが良かったですね。
そこですよ。色々と思うところはあるけど結局は緩いギャグみたいになってる映画っていうのが、イオセリアーニ作品も含めて俺がジョージア映画で大好きなところなんですよね。そういう懐の広い映画っていうのが本作の素晴らしい部分で、たまたま時間が合ったから観ただけなんだがジョージア映画祭2024の1本目がこの『奇人たち』で良かったなぁと思った次第でもあった。
何はともあれ時間が合う限りはジョージア映画祭2024観たいですね。ジョージアだけでなく中央アジアの映画をもっと紹介してほしいというのもあるが…。とりあえず1本目ってことで『奇人たち』は面白かったです。