ジョージア映画祭8本目。
今回は珍しく事前に紹介文(といっても100文字程度のものだが)を読んでいたので大体どんなお話なのかは把握していたのだが、それにしても思った以上に大分コメディな作品でびっくりという『サマニシヴィリ家の継母』でした。ユーモラスな面のある映画だろうというのは短い作品紹介からも察せられたのだが想像以上にはっちゃけたお話でしたね。実際上映中は客席で結構笑い声が上がっていたので本作をコメディとして観たのは俺だけってわけでもないのだろう。
さてそのお話だが、公式のあらすじ紹介も交えながら書いていくと舞台は19世紀末のジョージアの緑豊かな田園地帯。かつては貴族だったらしいが現在では農家として生きている男が主人公で、その男の今や老人(60前半から半ばくらいだろうか)である父親が突然「わし、再婚する!」と言い出すところから映画は始まる。貴族時代は知らないが現在はどう見ても裕福ではない農家である働き盛りの一人息子は父のその宣言に戦々恐々とする。だって老いたとはいえ父親が再婚して万が一子供でも生まれればそれは自分の妹か弟ということになり、その分自分が受け取るはずだった父親の遺産が目減りしてしまうじゃないか! ということなのである。そこで一計を案じた息子夫婦はきっと今で言う不妊症であろうということで中年を過ぎて結婚経験があるものの出産経験はないという条件を満たす寡婦を探す旅に出るのである…というお話です。
もうこのあらすじだけで大分バカバカしいよなっていう気分にはなる。だって人生も最終盤で孫もいて後はどのように死ぬかっていうところに差し掛かっているジジイが今さら独り身は寂しいから再婚したいとか言い出すのがもう滑稽でしょ。賢人的な老人のイメージからは程遠くて俗っぽいし生々しいし身の程知らずでもある。でもどんな年齢になってもロマンスはしたいってのは心情的には分からなくもないという部分もあり非常に人間臭いジジイなんですよね。なんてワガママなジジイだ! とはなるけどさ。
んでそのジジイに振り回されるように息子がなるべく波風立たないような再婚相手を探すのだが、その道中もまたハチャメチャで面白かった。息子の姉だったか妹だったか忘れたがその夫(主人公からすれば義理の兄か弟)が、お前の望む再婚相手に心当たりがあるから俺の人脈を当たろう、と言って主人公を導くようなポジションのキャラかと思わせておいて、その実彼は行く先々で酒とご馳走を要求して起こさなくてもいい騒ぎを巻き起こしていくトリックスター的なキャラクターなんですよね。彼はさすがにそれはないやろ…な展開を実際にやってしまうのだが、そこに設定的なリアリティとかはなくて、とにかくキャラの強さだけで客に、コイツならこういうことするかもな…と思わせてしまう展開を押し通していくという実に強引なノリで物語が続いていくのだが、それがまたいい感じのコメディ感が出ていて楽しいんですよね。実にバカバカしい展開が続いていくのでもう笑っちゃうよね、ってなるわけです。
87分という尺の短さもいい感じなのだが、トラブルメーカの義兄だか義弟が言い出したことは大抵逆の結果になるという実に分かりやすいネタ振りとボケで構成されていて、テンポよくそれが展開するので飽きることなく観ることができた。それでいてジョージアの農村風景が美しくてブリューゲルの風俗画のような味わいもあってそこも良かったですねぇ。衣装も良かったな。
まぁそんな感じで楽しいドタバタコメディでした。オチは意外とシリアスな方向に行って終盤までのドタバタ感はなくなってしまうのだが、死にかけの親父に再婚相手を連れてくるという現実見のないことをやってのけちゃうんだったら、その先もまぁ色々あるだろうが何とかなるんじゃないですかね、って感じられてそこまで悲しい終わり方という気はしませんでしたね。多少の摩擦はあれど、まぁその内どうにかなるんじゃないかなという楽観はジョージア映画ではよく見られるもので、その歴史を踏まえても賢く逞しく生き抜いていきそうな気がするのでオチはそんなに悲観的には写りませんでした。
まぁそれよりも尺の大半を占めるドタバタなギャグを楽しむ映画じゃないかなと思いますね。面白かった。