茶一郎

午後の遺言状の茶一郎のレビュー・感想・評価

午後の遺言状(1995年製作の映画)
4.5
『死に向かって歩くこと』

  生と生とで前向きな死をパッキングし『老いとは』を浮かび上がらせた作品。『老いても人間は変わらず成長し続けるべきではないか』ということをとてもコミカルなドラマで教えてくれる。
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 舞台は女優の森本が避暑のために訪れた長野の山荘。ほとんど管理人と森本、その山荘に訪れる(意外な)客人だけの小ぢんまりとしたストーリー。

 管理人を演じた乙羽信子さんは、監督の奥様であり撮影中は肝臓ガンにかかり余命1年と宣告されたそう。撮影中に女優であり妻でもある彼女が死ぬかもしれない。監督は今作を撮影するか・しないかで悩み、最終的には撮影を開始した。妻の『生』に賭けた今作は何とか完成し、乙羽信子さんの遺作になってしまう。
まさに『老い』と『死』がテーマの今作で、死を目の前にしても働き続ける、前に歩き続ける姿をその女優魂で身を持って知らしめた映画の奇跡。
 そんな素晴らしい背景を知らずとも、美しい自然、劇中の『死』にまつわる話と『生』にまつわる話・儀式の対比、それぞれが感動的に染み入ってくる。

 『生きるってことはなぁ絶望しながらも一生懸命やることなんだよ!』
とお前が言うかと、彼もまた精一杯生きる人物。
どんなに老いてもムシャムシャと食事をする夫婦、死に向かい歩いて行く。

いろいろあったけれども……と最後には重い腰を上げ、また歩き続ける主人公の様子に喝采を送りたかった。
茶一郎

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