こたつむり

催眠のこたつむりのレビュー・感想・評価

催眠(1999年製作の映画)
3.5
♪ 届かないね 届かないね MY FLAME
  摩天楼が血を吐いてる RAINY DAY

色々と瑕疵が多い作品だと思います。
でも、嫌いになれないんですよね。
それは、虚構と現実の壁に絡み取られた背景を知っているから…かもしれません。

何しろ、当時の潮流を生み出した黒い背表紙。
その影響力を肌で感じていましたからね。
その中でも『リング』と『パラサイト・イヴ』の2冊の勢いは絶大でしたね。「革命」と呼ぶに相応しい作品だったと思います。

そして悔しいのがミステリの不甲斐なさ。
“新本格”という革命を起こしたまでは良かったのですが、大局を見失い、結果ありきの袋小路に陥っていました。京極夏彦さんの一撃は絶大なれど、あまりにも分厚すぎたのです。

だから、映画会社が“二匹目のドジョウ”を狙うのも当然のこと。テレビの向こう側から飛び出してきた“恐怖”に負けまいと、理屈に理屈を重ねた作品を“お化け屋敷”にするのも容易な話だったのです。

ただ、小説には小説の潮流があるように。
映像には映像の潮流があるわけで。
松岡圭祐先生の小説を借りたとしても、力不足ならば時代の波に押し戻されるだけ。

思い返してみれば。
本作が劇場公開されるよりも2年前に、テレビでは『踊る大捜査線』が虚構に穴を開けました。そして、1999年には『ケイゾク』が「超・虚構」と言わんばかりに現実を振り落としました。

その時代の先に作られた本作。
前時代的なセンスが足元にまとわりつきながらも、隅々からは「定型に収まらないぞ」という想いも透けて見えて。商魂と創作者の矜持がごちゃ混ぜになった感覚は不安定の極み。

ただ、その“いびつさ”が良いのです。
菅野美穂さんの熱演がなければ「凡作」と誹られようとも嫌いになれないのです。不思議な話ですね。それこそ“催眠暗示”なのかも。うへ。

まあ、そんなわけで。
中途半端に焦点が合っていない感覚で仕上げられた物語。賛否両論…というか「否」の意見が多いかと思いますが、丹念に細かい部分を拾っていくと“嫌な気分”になれる佳作に変化しますよ。
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