ゆーさく

モスキート・コーストのゆーさくのネタバレレビュー・内容・結末

モスキート・コースト(1986年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ハリソン・フォードってこんな役もやれるんやな!
いつもタフなヒーロー役しかやらないなと思ってたけど、こんなヘイト溜めまくりの毒親役も出来るんや。驚いたわ。

ハーバード中退の優秀な発明家でありながら、アメリカの文明社会を憎む親父が、家族を巻き込んでホンジュラスにあるジャングル奥地の村で暮らそうとする。
はじめはうまく行ってたけど、次第に家族間に亀裂が生まれていく。。。って話。


中盤までは親父も結構上手くやれてた。
めちゃめちゃ癖強い親父でだいぶ上から目線やけど賢いは賢い。
文明から離れながらもジャングルの自然や豊富な資材を生かした自休自足生活を上手く成り立たせてた。

食物保存を目的に、親父が謎技術で村の奥に巨大製氷機を建てたところから雲行きが怪しくなる。

製氷機自体はめちゃめちゃ便利で空調設備としても使えて重宝するのだけど、現地の人に対して「氷なんか見たことない未開人」とのたまい、自らの功績を触れて回り、
「山を越えた隣の部族にも氷をあげよう。奴ら、氷を宝石だと思って驚くぞ!」と喜び勇んでデカい氷運んでいく姿は滑稽極まりなかった。

ソリで氷運びながらの過酷過ぎる山越えに巻き込まれる息子たちはひたすら可哀想。
部族たちの元に辿り着いた時、氷は既に溶けてしまっていた、という親父の無計画っぷりマジで腹立つ。



アメリカの文明を憎んでた親父が、次第に家族や現地の村人に対して独裁的なふるまいを見せ始め、自身の発明によってジャングルの自然を汚染させ、宗教を憎んで教会を攻撃し、嵐が近づいているというのに家族を安全な街に避難させず海辺で暮らす事を強いるなど、どんどんアメリカ的な強権主義に走っていくの最高に皮肉。
親父自体がちっちゃいアメリカみたいになっていく。

私の信念は家族の信念と言わんばかりに、家族の命を危険に晒してでも「文明に戻ることは許さん」と一蓮托生を求め続ける親父の姿。。。

次第に家族間に親父へのヘイトが溜まり始める。その時、次男が静かにつぶやく「お父さんなんか死ねばいいのに」というセリフが、こんなにもしっくりくる映画もなかなか無い。

始めは滑稽なところもあり、ユーモラスでさえあった親父がどんどんヴィラン化していく。ダメだこいつ、早く何とかしないと…。




そして発明家としては天才的な親父への尊敬と、家族を省みない独裁的な姿への憎しみの間で板挟みになる長男チャーリーを演じるのは「スタンド・バイ・ミー」出演直前のリバー・フェニックス。

親父への殺意を高めていく次男を叱りながらも、自分の中にも育つ親父への憎しみに抗えなくて苦悩する姿、その目付きにはドラマがあった。


この物語がどう着地するのか非常に興味をもって見守ってたのだけど、まぁやっぱりというか、幸福な終わり方にはならなかったな。
でも考えうる中ではまだマシというか、家族の理性に親父は救われたな、と思った。

親父の主張には一理あるけど親父の行動には理が一分も無いんだよな。攻撃的で思考が退化してる。
文明から離れると人はこんな蛮行に走りますよ、の見本みたい。

文明って意外と人間の理性を保つのに必要なものだったんじゃないの、ってこの映画観て思いましたわ。
ゆーさく

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