りんと

ファニーゲーム U.S.A.のりんとのネタバレレビュー・内容・結末

ファニーゲーム U.S.A.(2007年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

ミヒャエル・ハネケ監督「ファニー・ゲーム」の、監督自らのセルフリメイク作品です。
個人的には、今作以上に鑑賞後に不快な気持ちになる映画は無いと思えるほどの傑作だと思っています。

リメイク前ですら、見終わった観客がショックで席を立てないほどの胸糞悪い映画だったものが、良さをそのままにリメイクされた本作。
他の方のレビューにもありましたが、オリジナルの方が雰囲気や演技がいい意味で素朴で、日常の一コマに突然差し込まれた青年の異質さがあり、「理不尽な殺人はこうして起こる」という恐ろしさを感じました。一方でリメイクされた本作は、ナオミ・ワッツ、ティム・ロスといった豪華な俳優を揃え、青年たちも仰々しい演技でフィクション感が強まった印象でした。
この点こそが賛否両論巻き起こす火種となっていますが、こと本作においては、フィクションであることが際立った方が終盤のとある演出の不快さが際立つのではないか、と私は考えています。

基本的に映画を鑑賞している時、それを観ている人間はひたすらに情報の受け手に徹しています。ストーリーや演出に各々思うところがあったとしても、映画の流れそのものに自己意思が介在することはない、むしろ、より映画に没入するために鑑賞者の自由意思が介在することは許されない、情報の一方通行であるという構造が成り立っているが故に、映画というコンテンツたらしめているのだと思います。それが、有名俳優を起用してフィクションという設定が随所に散りばめられているのであれば、なおさら鑑賞者は受け手として身構えることでしょう。

そんな受信態勢を整えた鑑賞者に対し、この映画が終盤に繰り出すリモコンの演出は、その態勢を崩す体落としと言えるかもしれません。
限りなく鑑賞者の意思に近い表現。とりわけ映画をよく見る人間であれば、日常生活で何気なく行われる操作。DVDならいざしらず、こちらが受け手に努める映画というコンテンツでそれを行い、あまつさえ鑑賞者の大多数が望まない方向へ物語をわざわざ捻じ曲げるような演出は、これ以上無いほどの不快感と嫌悪感を催すだろうことは想像に難くありません。

映画が好きな人こそ持っている価値観を、根底から破壊する胸糞映画。映画好きな方にこそ、ぜひ見ていただきたいものです。
りんと

りんと