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サンセット大通りのろのレビュー・感想・評価

サンセット大通り(1950年製作の映画)
5.0

「人生は奇妙に慈悲深く、ノーマに情けをかけた。
取りついた夢で、彼女を包んだのだ。」

鳴かず飛ばずの脚本家、ジョーは借金取りに追われていた。
ひょんなことから迷い込んだのは、一軒の寂れた豪邸。
屋敷の主人はかつての大スター、ノーマ・デズモンドだった。
無一文のジョーは、彼女が自分を雇うよう仕向けるが・・・

車はノーマの特注品。
スーツの仕立てもノーマ好みに。
シガレットケースでさえ、彼女の影を感じさせる。
大スターのご機嫌取りで臨時収入を得るつもりが、徐々にノーマから逃れられなくなっていく。

孤独な彼女の唯一の願い、それはスターとして映画に戻ってくること。
サロメの脚本をスタジオに持ち込んだ彼女に、ふとスポットライトが当たる。
「ノーマだ・・・ノーマ・デズモンドだ・・・!」
眩しさに目を細める彼女は、自分を取り巻く人々と握手を交わす。
そんな幸せも束の間、
「さぁ、撮影を再開するぞ」
掛け声とともにスポットライトは消え、人々は去っていく。

それでも、彼女は信じ続けた。
だからその夢は叶ったのだ、たとえ彼女の中だけでも。
クリスマスの日に泣きながら駆け上がった階段を、今日はサロメとして優雅に降りてくる。
カメラも記者も警察も、その場にいる者の視線はすべて、彼女一人に注がれる。

現実を見通したおかげで、愛する人も仕事も自由さえ失った男が、ついにこの屋敷から出ることはなかった。
理想を求め続けたノーマは、映画という夢も、愛する男も手に入れた。まるで彼女が憧れていたサロメのように。

「映画こそ私の人生。それ以外ないんですもの。私たちとカメラと、暗闇で画面を見つめる素晴らしい人々以外は・・・。」



( ..)φ

死んだサル、奇妙な執事、風で鳴るパイプオルガン。
美しい装飾品を纏った屋敷はまるで、モノクロ版「暗殺のオペラ」を見ているよう。

2階へ上がるノーマが、鏡にぼやけて映る。ロウソクの灯がちらちらと揺れている。
ジョーの部屋に入る前、鏡に目をやる。目元のテープを剥がし、ドレスを整える。
「これから撮影なの」と警察に一言。ここでも鏡を見ながら粉をはたいている。
鏡に映るノーマはどれも、女優の気品に満ちている。

そして、物語が進むにつれて明かされていく執事マックスの深い愛。テレビカメラの隣で、監督として彼女を映す彼の表情に痺れた。(ほんまたまらんのよ大好き)

リビングでショーをしたりチャップリンを演じるノーマと、ジュディ・ガーランドの「スタア誕生」や「レオン」のナタリー・ポートマンが重なって見える。
「アパートの鍵貸します」で登場した‘シェルドレイク’の名はここでも登場する。ワイルダー監督のスパイスが散りばめられていて楽しかった。


_φ(・_・

一夜明け、この映画のことを考えていると、昨日自分が書いた感想はちょっとどころかかなり的外れだった気もする。

二人は(いや三人とも)、映画に恋をしていたのだ。
女優は映画の表舞台で再び輝くことを夢見る。
脚本家は裏方として映画を創ることを切望する。
だからこそ、ハリウッドの生活を何もかも捨て去る決心がなかなか固まらなかった。ノーマ邸に留まることは、映画と通じる唯一の希望だったのかもしれない。
そして執事もやはり、ノーマを通して映画を愛していた。
結局、三人とも映画の虜だった。
彼らと私は、とても近いところにいる。

表面を覆う薄い膜に囚われるな、と言いたい。
もっともっと、“よく”観るんだ、映画を。
ろ