はる

ミッドナイト・ランのはるのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・ラン(1988年製作の映画)
4.8
全編に軽妙で可笑しみの漂う今作は、コメディを基調にしながらもアクション、クライム、そしてドラマの面でも秀逸で、公開当時から大好きな映画だ。
今作はUS映画ではおなじみの賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)ものなのだけど、日本にない制度のもとに成り立っている職業なので、私立探偵のようなものと考えると良いかも。実際は「保釈保証業者」が裁判を控えた被疑者の保釈金を肩代わりして、最終的に手数料を取ることで利益を得るのだが、その被疑者が保釈中に失踪したりすると、賞金稼ぎの出番になる。

賞金稼ぎのジャック・ウォルシュ(ロバート・デ・ニーロ)が送られ、保釈中に失踪した元マフィアの会計士、 "デューク"ことジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン)を探す。 FBIやマフィアもデュークを探している中で、ライバルの賞金稼ぎのマービン・ドフラー(ジョン・アシュトン)まで入り乱れた騒動へと発展していく。NYからLAへの長い横断旅行を通して2人はお互いを知り、そして‥。

さてネタバレ。
やはりジャックの人物造形が素晴らしい。ジャックはシカゴ市警の元警官で、犯罪組織からの賄賂を受け取らなかったために濡れ衣を着せられて離職した過去がある。そして家庭を失い、元妻は賄賂を受け取っていた元同僚と再婚し、一人娘もそこにいる。そういう自分を正当化することもできずに不器用な人生を送っている。壊れた腕時計を使い続けているのは象徴的だ。
そういう彼が、デュークとの旅の中でかつての自分を取り戻していく物語であるので、そこはよくある流れだろう。何を取り戻したのかというと、それは矜持であり正義感、他者への思いやりという人間性だ。まあ思いやる心についてはジャックに欠けていたものかもしれない。家庭を失ったのはそこなのだろうし。ジャックはデュークの行為を偽善だと思っていたし、自分への干渉を「おせっかい」だと感じていた。しかし飛行機での移動ではなく、陸路での長旅になったことで知り合う時間が生じて、他者への関心、価値観のアップデートがなされて、やがては共存関係になる。これぞバディもの、そしてロードムービーの良さである。

そういう芯にあるドラマに、FBIやマフィア、保釈保証業者、その助手、ライバルのマービンそれぞれの思惑が絡まって、先が読めない展開に終始するのだから面白くないはずがない。脚本が素晴らしいのは言うまでもないが、編集や音楽も同様。デ・ニーロとグローディンの相性も良く見えるし、貨車での会話や偽札のくだりはほとんど即興で撮られたという。監督のマーティン・ブレストは寡作の作家だが、この一つ前の『ビバリーヒルズ・コップ』で大ヒットを飛ばし、そして今作、さらに『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』『ジョー・ブラックをよろしく』と傑作、話題作を作り続けていて、信頼できる作家だった。酷評された『ジーリ』以降はほとんど表舞台に出てきていないようで、それは残念だ。

保証業者の助手、ジェリー役のジャック・キーホーのキャスティングも嬉しい。彼は『スティング』での印象があり、そちらでは詐欺師として主人公グループの一員だった。今作とスティングの共通点とすれば「騙し合い」の要素だが、どちらも脚本がとてもよく練られていて、なおかつアウトローの友情ものという点も同様。ジャックの「マービン!」とジェリーの「ドーナツ」は何度見ても笑える。

ちなみにセラノ役のデニス・ファリーナがシカゴ警察の警官だったという経歴の持ち主なのは面白いし、今作のことを思えば皮肉にも思える。
はる

はる