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スリ(掏摸)のろのレビュー・感想・評価

スリ(掏摸)(1959年製作の映画)
3.7
「カネは得たが、その先に希望は?」

先日「戦後ドイツの映画ポスター展」で今作のポスターを見てきました。
ジャケットのポケットから手がニュッと出ている、とても印象的なデザイン。ハンスヒルマンというアーティストの作品だったけれど、彼のデザインはどれもイラストと写真が組み合わさったもので、カッコよかったな~。

そして今作を観てびっくり!
これはドストエフスキー「罪と罰」のオマージュなのかな?
主人公はボロアパートに一人暮らし、母親は重病…などなど重なる設定がたくさん。
4月に手塚治虫が描いた「罪と罰」を読んだばかり。映像にするとこんな感じになるのかなぁと思いました。


貧しい暮らしをする主人公ミシェル。
やがて彼は自分の弱さに負け、スリに手を染める。
初めは自己流で行うが、次第に技を習い、仲間と連携して行うように。銀行や地下鉄、競馬場で財布から腕時計まで、滑らかな手つきで盗んでいく。そしてついには友人のお金にも手を出してしまう…。


見せ場はやっぱり酒場のシーンではないでしょうか。
「罪と罰」でもこの場面がたまらなく好きなんですよね~。

ミシェルは淡々と語る。
「有能な者には特権があります。聡明で才能豊かで天才的な人物。そういう人が不遇の場合、法を犯す自由もある」
彼のギラギラとした目に、同席している刑事もタジタジ。
「君の持論は通用しない。ただの自己満足だ」と言い放ちます。

自分こそ特権者だと自負するミシェル。その考えはうぬぼれでもあり、驕りでもある。
”自分は特別だ”と思いこみたい気持ちは、誰にでもあるものだと思う。しかし、行き過ぎた考えは危ない。ミシェルは知らず知らずのうちに、破滅への道を歩んでいく。

貧しさをしのぐためなら犯罪をしてもいいなんて、誰が決めた?
「間違っている。最も巧みなスリも、人間性を向上させない」
ろ