円柱野郎

プライド 運命の瞬間の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

プライド 運命の瞬間(1998年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

太平洋戦争の終戦後、GHQによる逮捕直前に自決未遂を起こした敗軍の将・東條英機。
その東條や判事の一人パールの目を通して極東国際軍事裁判(東京裁判)を描いたドラマ。

東條英機が主人公だからこの映画が右翼的で危険だとは言いたくない。
東京裁判が勝者の論理や冷戦下での連合国側の都合の影響下から逃れられない中で、敗戦国の責任者・悪しき軍国主義の象徴として結果の決まった裁判にかけられる側の視点として、最後の信念を描いた作品だと思う。
元々はパール判事を主人公にした企画だったそうだけど、やはり東京裁判に限っては良くも悪くも東條が“目玉”であったろうし、死にぞこないが何を懸けて最期に連合国へ挑むのかという部分にドラマはあった。

冒頭、弁護人に「無罪と主張してください」と言われ、「どうせ有罪になるのに無罪という意味はどこに?」と返す東條。
そして「日本人に対しては有罪です、しかし米英敵国に対しては有罪と認めていただきたくない」という弁護人の台詞。
結局この映画が問うているのは、勝者が裁く裁判は公正なのか?という点であるわけだけど、その点を深掘りするならばなるほどパール判事の視点の方がいいかもしれない。
実はそこに少しこの映画の難があって、東條英機の話以外に、パール判事のドラマが中途半端に挿入されるもんだから1本の映画として観た時にはあまり上手く溶け合っていないように感じるんだよね。
さらに言うとパール判事やインパール作戦に参加したというホテルマンの視点からインド独立における日本が影響を及ぼした意義が描かれるのだけど、そのへんは明らかに取ってつけたように感じたかなあ。

東京裁判の様子を簡単に知る資料としては、個人的には1983年のドキュメンタリー映画「東京裁判」が良いかな。
あれはとても見ごたえのある(4時間半の)ドキュメンタリー映画でした。
そのドキュメンタリーを観た上でこの映画を観ると「東條の想いとしてはそうだったかもしれない」というくらいには上手く補完しているとは思った。
とはいえそれは創作の部分も多いわけで、そのあたりはある程度“東條目線”としての色眼鏡で観ないといけないのも事実。
結局のところ、自分は戦争にしてもその結果にしてもそこに一面的な視点で片付けられるものはないのだと考えているし、勝った側の論理、負けた側の論理、お互いに(その時は)正しいと思って行った結果の果てとしてどう決着をつけるのかは難しい問題なわけで、その中で本作は負けた側の中心人物の目線で描いたというドラマとして、東京裁判の話に限ってはよく出来ていたと思う。
(本作では中途半端になってしまった判事側の目線であれば、2016年にNHKで放送されたドラマ「東京裁判」がそっちの視点で分かりやすく描いていたと思います。)

監督は伊藤俊也で人の情念を主体的に描くという部分ではブレていないように感じる。
途中、いきなり能がオーバーラップされたり、メイクが隈取になったりといった部分は往年の「女囚さそり」シリーズの様な観念的な演出で「変わってないなあw」と思う部分もあったかな。
主演の津川雅彦は少々力の入った演技に思う部分もあったけど、法廷の場面では雰囲気をうまく再現していたね。
脇の役者もなかなか上手い人で固めているので安心感があったけど、特に外国人のキャストは邦画でよくある演技の微妙な外国人ではなくてよかった。
ウェッブ裁判長やキーナン検事、ブレイクニー弁護士などもしっかりした役者で揃えていて素晴らしい。

東條以外の戦犯役も雰囲気の似た人をそろえていてなかなか。
大川周明役が石橋蓮司ってのは…ちょっと似てないけど、あのちょっとだけの登場でもインパクトのあるシーンだからそのための配役かな?
関西人の自分としては、田中少将役として島木譲二が出てきたところで内容に関係なく驚いてしまいましたw
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