茶一郎

誓いの茶一郎のレビュー・感想・評価

誓い(1981年製作の映画)
4.1
青春を駆け抜ける若きランナーの肖像。オーストラリア西部に住むアーチーは、伯父のスパルタ教育によりオーストラリアを代表するランナーになりました。一方、彼の前に現れたフランク(メル・ギブソン)は肉体労働の傍ら、賞金稼ぎとしてレースに参加するランナー。彼はクラウチング・スタートも知らない走りですが、アーチーを追い詰めるほどの速さを持ったまさに野生の天才ランナーです。
 レースを通じて友情を育み、「好敵手」と書いて「とも」と呼ぶ関係になった二人が向かう先は何と戦場でした。
 今作『誓い』は、『ピクニックatハンギング・ロック』、『いまを生きる』、『トゥルーマン・ショー』などで広く知られるピーター・ウィアー監督が、『マッドマックス』の試写にて一目惚れしたメル・ギブソンを主演に迎えた「青春戦争映画」です。
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 原題『GALLIPOLI』は、第一次世界大戦において無数の死者を出した「ガリポリの戦い」・オーストラリア初の大規模上陸作戦であったガリポリ半島への奇襲上陸作戦を指します。9ヶ月に及んだこの戦いは、オーストラリア軍兵士8700人もの死者を出すこととなりますが、数字の上ではその兵士が何者だったかを理解することはできません。この8700人の中に、将来有望の天才ランナー2人・アーチーとフランクは飛び込もうとしたのです。

 おおよそ「戦争映画」とは思えないほどのキラキラの青春描写から始まり、その青春は次第に戦場に鳴り響く銃声に侵食されていきます。
 しかし、アーチー含め多くの若者たちは戦場に行っても、自分たちの青春を謳歌します。彼らにしてみれば軍事演習を行うカイロはまるで修学旅行の観光地と化し、高校生が修学旅行先で木刀を買うように、彼らが不必要なお土産を買う様子も描かれます。そして、いざ戦場に行ってもそのスタンスは変わらず、砲撃が鳴り止まない中、彼らは浜辺で裸になって遊びます。

 やがて、次第に戦争と死の色が濃くなっていくこの青春物語。戦争による死が突然訪れるように、彼らの青春物語も悲惨な戦争映画に急変しました。この落差にはただただ打ちひしがれるのみ。青春戦争映画の系譜には今作『誓い』と同じく、『特攻大作戦』、『英霊たちの応援歌、最後の早慶戦』などがありますが、この落差こそが我々観客に、戦場でしか青春を謳歌できなかった若者の悲劇の死を強調します。
茶一郎

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