しんご

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊のしんごのレビュー・感想・評価

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年製作の映画)
4.7
ネット社会において「魂とは何か?」という非常に哲学的なテーマを追求した日本映画の中でも屈指の名作だと思っております。凄いのがこれが1995年製作だということ。各家庭にネットが普及していない時代にここまで先見性ある作品を世に送りだした押井監督ならびにスタッフは真の天才としか思えない。

「ブレードランナー」(82)では人間のような感情を持つレプリカントを排除する任務にデッカードは疑問を抱く。また、「ロボコップ」(87)では法的にも医学的にも死亡したマーフィーの意識のみがロボコップに宿り、彼は自分が何者なのかと苦悩する。サイバーパンクと呼ばれるジャンルではアンドロイドが「自我」や「魂」を持つことがあり得るか?がしばしばテーマとして描かれてきた。

この「自我」や「魂」が攻殻機動隊では「ゴースト」と表現される。生身の人間、脳を残し体の一部または全部を機械化した「義体」、脳から直接ネット接続できる措置を施した「電脳化」人間が混在する本作の世界では、「人の定義」はハリウッドのどのサイバーパンク映画より複雑かつ多様だ。

さらに「人形使い」が加わりストーリーはより複雑で観念的な方向へと向かう。自立型プログラムでいわば情報の集合体に過ぎない「人形使い」が自分の意思を持ち始めたと荒巻達に語るシーンは今観ても驚愕の一言。「経験を記憶する過程」=「自我」とした上で、外部記憶媒体で膨大な情報を蓄積したプログラムである人形使いも立派な生命体だと主張するシーンは本当に深い。「記憶の外部化が可能になった時、人はその意味の重要性をもっと真剣に考えるべきだった。」との人形使いの言葉は現代への警鐘の様にも聞こえる。

そんな深いテーマを支えるストーリー、世界観、キャラクター全てが完璧過ぎる。中でも草薙素子役の田中敦子さん、バトー役の大塚明夫さんの声の魅力と言葉の説得力が凄い。大塚さん曰く「攻殻は演者も全員頭をフルに使って考えなきゃいけないから芝居が大変なんですよ(苦笑)」だそうで、その結果があのリアリティに繋がっているのは疑いの余地がない。

ハリウッド版観るのが怖いな笑。
しんご

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