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マイレージ、マイライフのdeenityのレビュー・感想・評価

マイレージ、マイライフ(2009年製作の映画)
4.5
何だかこの思っていたイメージを裏切られる感じは久々で、この心揺さぶられる感じは『スリービルボード 』を見た時と近い感覚を持ちました。

というのも、主人公であるライアンに対するイメージがまさにそうで、リストラ宣告を請け負うという冷酷な仕事。そして生きがいはマイレージを貯めること。新人が持ってきたネットでの宣告というアイデアに対しては噛みつき、それっぽい理由を並べて、うまいこと自分の都合よく持っていこうとする感じ。はっきり言って嫌な奴だとしか思いませんでした。

ところがそのイメージが崩れ去っていくわけですね。アナ・ケンドリック演じるナタリーへの新人教育から彼の行動にはまさに敬意と礼節に基づいた対応だと気づかされるわけです。
リストラを告げるのだから下手に相手に取り繕うのではなく、プロとして次のライフスタイルへの後押しをする。
恐らくそんなことも考えずに職務をこなす人はいくらでもいるんだろうけども、そこのギャップが取り払われ、ライアンは違うんだという感じが描写から伝わってきてからはイメージが変わっていきました。

もちろん、彼自身が心揺さぶられるシーンのうっちゃりもすごいですね。
作品をとり巻く家族を持つことへの意識を募らせる構造。そしてヴェラ・ファーミガ演じるアレックスの存在。夢であった1000万マイルを貯めてもどことなく空虚な感じがし、その理由を家族に求めていくという流れ。
見事なまでにライアンの人としてのハッピーエンドへの道筋が開けているわけです。

ところがアレックスの元へ押しかけてしまったが故に知ってしまう事実。まあ旅先で出会った相手のことを信じて押しかけるなんてらしくないのだが、それが彼の人生の好転に見せかけるという見せ方は実に巧みだと思いました。

そうではなく、本作の温かみは彼自身が敬意と礼節を貫く行動にあったわけですね。
メール一通でフラれてご乱心だったナタリーが、やむを得ないとはいえメール一通で退職するという無礼っぷり。そこを最後に上司として背中を押しながらもサッと教え諭すかのようなラスト。
本作はこのライアンという人柄、それを見事に演じきったジョージ・クルーニーに尽きます。

人に温かさを与え、自分は温かさを求めるのだけどぽっかりと穴の開いたよう気持ちになる。少し寂しくもあるのだけど、これって昔一本だけ見た寅さんと近いものがありますよね。だから日本人にはウケるような気がしました。
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