hana

カストラートのhanaのレビュー・感想・評価

カストラート(1994年製作の映画)
3.8
16世紀〜18世紀。
オペラの舞台や教会で、女性が歌うことを禁止されていた時代に、様々な思惑により生まれた”カストラート”(去勢するという意味の伊語)。
ボーイソプラノの澄みやかな声音と、広い音域、高度な技巧、成人男性の力強さを併せ持った彼らは、他に類をみない魅惑的な”歌声”をしていたといいます。

現在では幻の存在となった”カストラート”。その中でも伝説といわれ、頂点へと上り詰めた”ファリネッリ”ことカルロ・ブロスキ。

18世紀イタリアに実在した伝説の”カストラート”とその兄の物語を、映画的に綴った作品。

ーーーーー
弟の歌声に魅せられ、その天からの授かり物を失わない為に、意図的にカストラート(去勢)してしまう兄リカルド。

兄の作った曲を歌い、兄の手によって名声を手に入れ上り詰めて行く弟カルロ(ファリネッリ)。
全てを分け合い、共依存のようにみえる兄弟の、しかし魂の深みですれ違う心。

兄の曲を歌うことで世に認められたカルロは、その才能ゆえに次第に兄の凡庸な音楽では満足できなくなり、兄を突き放していきます。
型破りな方法で反感を買いながらも、神に称えられた”歌声”だけでそれすらねじ伏せてしまうカルロ。
彼が手に入れたかったのは名声か、失った自分自身か。はたまた芸術に対しての純粋な献身か。

ーーーーー

”どうか泣かせて下さい
この残酷な運命にーーー”
オペラ「リナルド」で歌われるヘンデルのアリアに乗せて、ファリネッリが舞台から放つ荘厳かつ切実な魂の叫びが、強烈に心に刺さります。
高音は女性ソプラノ、低音は男性カウンターテナーと、2人分の声を合成しなければ再現出来なかった驚異の”歌声”。

”唯一の神
ファリネッリも ただ一人”
重厚なバロックの空気感。作品全体に漂う官能的な雰囲気。
目で耳で味わう濃密な106分です。
hana

hana