hana

レッドタートル ある島の物語のhanaのレビュー・感想・評価

5.0
油断してました。必ず観ておこう‼︎とは思ってたけど、実際何気なくふらっと観に行ってしまった。
ーーー心に響く傑作でした。
素晴らしかった。
もしかしたら今年観た中で一番良かったかもしれない。まさかこんな所でこんなに感動する作品に出会うとは、正直思っていませんでした。
私はこういう作品大好きです。

ジブリライブラリー系の作品かと思いきや、列記としたジブリ作品です。でもイメージするジブリの要素は一つもありません。無声映画でセリフは一切無し。子供が観ても絶対面白くない、100%大人ジブリ。アート色はかなり強く、こういう毛色の画風は日本ではまず見かけないかも。もちろんとても美しい映像です。言わずと知れたカンヌ国際映画祭「ある視点」部門受賞作品。

構想10年、製作8年。
原作、脚本、監督の全てをフランス人のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット氏が担っています。
構想にはジブリの高畑監督が関わっていますが、製作は本国で行われた様で、鈴木敏夫、高畑勲、以外は目立って日本人の名前は見かけませんでした。

すごい素晴らしかったんですけど、この映画公開する前になんでもっとちゃんと宣伝とかしなかったんでしょうね?前触れなく突然全国公開された印象があります。ジブリ総選挙の方が映画より目立ってた。もったいなさ過ぎる。

確かに、かなり好みが分かれる作品ではあると思うんですが、個人的には色んな人に是非オススメしたいです。
本当に素晴らしかったんです。


どこから来たのか、どこへ行くのか、いのちはーーー。
登場人物には名前も無く、セリフの一切も、明確な説明も何もありません。人物描写は簡素で、目や表情から細かな感情を読み解く事も不可能です。確かなものが何もない中で、画面の中に描かれていく事柄を、ただ自分なりに想像していくのみです。
ストーリーは至ってシンプルで、単純明解な様にみえますが、そのじつ随所で観る側に自由な解釈を委ねられています。この作品は一体なにを描いているのか、恐らく正解は無く、観る人によって感じ方は千差万別でしょう。
また二度三度と重ねて観る度に捉え方が変わるーーーというか、観る度にあえて視点を変えいろいろな角度から吟味することで初めて、作品本来の世界観を味わいつくす事が出来るという、並外れた底深さがある作品だと思います。


文明が発達したことで、ある意味人間は世界の中で異質な生き物になってしまったのかもしれません。それが良いことか悪いことかは分かりませんが、この映画を見ている間だけは、人間も他の生き物と同様に世界の一部だと思わせてくれます。
文明の痕跡が欠片もない無人島で、男は他の生き物同様に、飲んで食べて眠り、時には大自然の脅威に晒されながら、その命を全うして行きます。
命が生まれ、そして死んでいく様を、極々当たり前のものとして、時には優しく、時には残酷に真正面から描き出していく作品です。そこには、人間も魚も鳥もアザラシもカニもウミガメも、区別はありません。すべてが世界の一部であり、すべてがひとつの命として無慈悲なほどに平等です。

圧倒的に美しい映像。視覚から得られる情景は果てし無く中立で、しかし随所で心を揺さぶる壮大な音楽が、この映画全体に広がる慈しみのようなものを表しているようで、音楽が流れる度に何度も泣いてしまいました。

無人島に流れ着いたひとりの男。砂浜と森林しかない島で、何とか生き長らえる男と、赤いウミガメとの出会い。そこから紡がれる物語は夢か現かーーー。
ぜひいろいろな解釈で、楽しんで頂きたい作品です。
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