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ビー・デビルのmaverickのレビュー・感想・評価

ビー・デビル(2010年製作の映画)
4.1
2010年の韓国映画。キム・ギドク監督の助監督であった、チャン・チョルス監督の長編映画デビュー作。大鐘賞で新人監督賞、大韓民国映画大賞で主演女優賞と新人監督賞を受賞した。


評価が高く、知名度もある作品。ホラーが苦手なことからずっと躊躇していたが、これは鑑賞して正解だった。多数の賞を受賞しているのも頷ける、芸術性をも感じさせる秀作。スプラッター描写も容赦ないが、それよりも人間の描き方に魅了される。単なるホラー映画とは一線を画した作品性だ。

ジャケットの絵がまず衝撃的。そこからイメージするのは、圧倒的なスプラッター描写。韓国映画らしく、生々しい惨殺劇に満ちているのだろうなと思った。それは外れではなかったが、想像した内容とはまただいぶ違う。意外なほどに人間ドラマが構築されているのだ。

作品上での主人公は、ヘウォンという都会暮らしの若い女性。故郷の孤島に帰省し、そこで島の住人で幼馴染のボンナムと再会する。ボンナムは島で酷い扱いを受けており、そのことに憤るヘウォン。ボンナムはヘウォンに憧れており、再会したことで彼女の中に変化が起きる。そしてそれがとんでもない悲劇を招いてしまう。

話のメインはボンナムの復讐劇だが、そこに至るまでの経緯の描き方がとても丁寧である。何が彼女の起爆剤だったのか。そこに説得力があるし、人はこうして壊れてしまうのだなというのを痛感させられる。復讐劇の見せ方もありきたりではない。彼女が住民を一人一人手にかけてゆく描写に、リアリティとインパクトの両方が同居している。その一つ一つに彼女の憎悪を感じるし、監督のこだわりをも感じる。雑に作られているシーンなど全くない。

ボンナムを演じたソ・ヨンヒの演技力には圧倒される。島の住人の見た目の説得力はもちろんのこと、ボンナムの蓄積されたやるせなさや怒りという内面の感情の深みの部分に凄味を感じさせる。ボンナムが吹っ切れたシーンはとても印象的。人が抑制を失い、衝動だけに転じる瞬間はああなのだろうとぞっとした。

主人公のヘウォンを通し、閉鎖的な環境の異常性を我々に痛感させる。ボンナムは耐え難い苦痛を受けているが、ヘウォンとの再会がなければ島での暮らしで一生を終えていた可能性が高い。夫の母親も同様な扱いを受けていたことが話から推測される。それが島での生き方なのだと、そう認識してしまうことが怖いことだ。

島の人間も、ソウルの人間もそれぞれに悪い部分を描いている。島だけが異常というわけではない。どちらにせよ悪いものは悪いということ。苦痛を伴う生き方は間違いだ。優しさを持って人に接することがなぜ出来ないのか。島の住人もみんながそうであれば良かった。ヘウォンもそうだ。人に優しくなれていない部分がある。本作は、そういうことに気付かせる意図もあるわけだ。

メッセージ性の多い深い作品であるが、スプラッター的なエグさも抜かりはない。後半の惨殺シーンは、ボンナムの気持ち的にどこか清々しさすらある。とはいえその見せ方は中々にグロイ。韓国映画らしい生々しさに満ちていて、そこは容赦ないなと。血糊で綺麗に「ぴゅー」とか、そんな生易しい演出じゃない。重さが全然違う。その上でアートとも感じる絵を差し込むあたりはさすがだ。


これは単なるスプラッター映画ではなかった。ラストは美しく、感動的で、それでいて物悲しい。圧倒させられてしまった。序盤はさほど盛り上がらないし、所々粗くて傑作というほどではない。だが強く印象に残る衝撃作で、一見の価値ありだ。

環境次第で人生は大きく変わってしまう。ヘウォンとボンナムの、幼い二人がはしゃぐ絵に胸が苦しくなる。誰もが喜びを感じられる人生であってほしい。
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