カツマ

バーバーのカツマのレビュー・感想・評価

バーバー(2001年製作の映画)
3.7
平地だと思って歩いていた道が実は坂道で、ふと落としたリンゴはコロコロと坂を転がり落ちていく。そのリンゴはある平凡な人生のよう。ちょっとしたボタンのかけ違いで人間は奈落の底へ転落していくし、人生は何が起こるかわからない。
床屋って元々白色が強くて、モノクロの描写とも相性が良い。加えて古き犯罪映画の手法としてのフィルムノワールの趣も強く、タバコの煙と影で見せるジョルジュ・ド・ラトゥール的陰影が不穏感を煽り、この先何か悪いことが起こりそうだという予感が画面全体を支配する。

義兄の床屋で働く理髪師のエド・クレインは無口なヘビースモーカーで、快活な妻とは真反対の物静かな性格。デパートで働く妻のドリスは上司のデイヴと妙に親密で、エドは2人の不倫関係を疑うようになる。
一方エドは床屋の客である投資家クレイトンと出会い、画期的な未知の新事業ドライクリーニングに投資することを決めてしまう。エドにそんなお金は無いはずなのだが、彼にはある目算があった。それは不倫関係にあるデイヴをゆすり、彼からお金をむしり取ろうとするものだった。無事、お金はクレイトンに渡り、エドの作戦は成功したかに見えたが・・。

あまりに淡々としていて、この映画で人が死んだり、裁判沙汰になったりするなんて夢にも思わないのだが、運命の矛先は無情にも主人公のエドを不運のどん底に突き落とす。しかし、映画全体に悲壮感はなく、むしろ手記を読んでいるかのような悟りの境地的テンションが朴訥と語られている、というマイペースなサスペンス作品だ。

若きスカーレット・ヨハンソンも出演。撮影はもちろんロジャー・ディーキンス。
この作品の頃はまだコーエン兄弟もインディペンデントなカリスマ的存在で、この映画は完全にミニシアター枠だったと思うのだが、コンパクトだからこそ監督のセンスを十分に感じる取ることができる作品でした。