カツマ

ヴィーガンズ・ハムのカツマのレビュー・感想・評価

ヴィーガンズ・ハム(2021年製作の映画)
4.0
ブラックコメディにしてはあまりにも黒過ぎる。ドロドロのドス黒さ、深さなどどうでもよくなるほどの深い沼地が広がっている。にも関わらず、何故この作品はこんなにも軽やかにステップを踏んでしまうのか。いつの間にかスキップするように、メルヘンチックにシリアルキラーは誕生していた。恐るべしフランス映画。日本ならきっとお蔵入りになっていた、はず。

元々はコメディアンとして活動していたファブリス・エブエが監督と主演を務めた、ブラックでダークなフランス産コメディ映画である。ここ日本では、ヒューマントラストシネマ渋谷などで開催されていたシッチェス映画祭ファンタスティックコレクション2022で上映され、密かに話題になっていた作品だが、配信によってまさかの再ブレイク?不謹慎とは分かっていても面白い作品だった。

〜あらすじ〜

肉屋を営んでいるソフィアとヴァンサンの妻夫は、お店の経営状況も芳しくなく、更には倦怠期による離婚の危機を迎えていた。そんなある日、肉屋をヴィーガンの過激派集団が急襲、ソフィアは赤い液体を身体全体にぶっかけられ、ヴァンサンは殴る蹴るの暴行を受けた。ヴァンサンは集団の一人に食い下がり、何とか顔を視認するも、拙い抵抗も虚しく過激派集団にまんまと逃げられてしまう。
後日、ブルジョワ気取りの友人たちの自慢話をたらふく聞かされた妻夫は、帰り道でたまたま過激派集団の一人と遭遇。殺すつもりはなかったヴァンサンだが、ちょっとした手違いで、ヴィーガンの青年は車に轢かれ死亡してしまっていた。
死体を処分しなくてはならなくなったヴァンサンは、そのヴィーガンの死体を解体し、ある場所に保管しておいた。
翌朝、ヴァンサンが目覚めると、ソフィアがそのヴィーガンの肉を店頭に並べてしまっているではないか。しかも、そのヴィーガンの肉は大層美味で、飛ぶように売れてしまい・・。

〜見どころと感想〜

ヴィーガンの人肉をハムにして売ってみたら大繁盛!だったらもっとヴィーガンを殺しまくって売りまくれ!という凄まじい設定の映画である。ただ、テイストは完全にコメディなので、軽いノリで観れてしまうという罪深い作品でもある。特に中盤のキルシーンはふざけ過ぎ、テンポが良すぎなので、不覚にも楽しく観れてしまった。これで何気にメッセージ性は強いという点はさすがにズルい。ズルすぎる映画である。

主演のマリナ・フォイスは『私は確信する』で主演を務めるなど、芯の強い女性の役が合うイメージ。今作ではシリアルキラー特集番組にズブズブにハマってしまい、夫に殺人をけしかける妻というヤバすぎる役どころだが、ノリノリで演じていて、終始楽しそうに見えた。ネームバリューだと彼女が圧倒的で、他の役者は初見。監督も兼任したファブリス・エブエはへタレの夫を好演しており、徐々に瞳孔が開いていくような演技はハマっていたと思う。

最近では環境活動家が名画を汚したりしてニュースになったりしているが、そういった過激派を揶揄しつつ、ヴィーガンを食べてしまうことで、我々は皆、生物の命を搾取して生きている、という事実を突き付ける、という二枚刃のメッセージ性がなかなか強烈。実は、肉を食べている側、食べていない側、どちらにも問題提起するという離れ業をやってしまっている映画である。ストーリーもちゃんと面白い点も見事。考えていないようでちゃんと考えている。知性がないようで実は知性的。何気によく練られた一本でした。

〜あとがき〜

こんなヤバい映画があるぞ!といえ触れ込みでよくタイムライン上に流れてきていた本作ですが、実際、ヤバい映画でしたね。ただ、ちゃんと面白いというのがスゴい。グロさも比較的抑えめなので、グロはちょっと、、という人でもギリギリ観られる、かもしれないです。(グロいはグロいので注意は必要です)

これを世界に発信してしまうフランス映画の特異性というか、作品としてのメッセージ性の汲み取り方もスゴいな、という印象も受けましたね。普通に面白いので、(激しくお勧めはしないですが)観て損はない一本かと思いました。
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