Melko

山の郵便配達のMelkoのレビュー・感想・評価

山の郵便配達(1999年製作の映画)
4.0
「道は足で歩け。楽をしようとするなどもってのほかだ。良いことはないぞ」
「楽をするつもりはない。でも、ヘリの時代になっても郵便だけは歩きなんて、なんか変だよ!」

「郵便配達の仕事はキツイ仕事だが、長く続ければ、友人も知識も増える。実にやり甲斐がある。他の仕事をしたいとは思わん。誇りを持ってやれよ?」

親の心、子知らず
子の心、親知らず

あたしも弟も、自分の父親の仕事だけは絶対継ぎたくないし、やれって言われてもできない自信しかないし、父親本人も「継がせるつもりなんて最初からない。こんなしんどいだけの仕事」って常々言ってるし、そんな自分からすると、
「公務員だから、山の人間でも出世できる」って打算的な考えが多少ありつつも、父親の仕事を継ごうとする息子の姿勢は素直に尊敬する。

2泊3日で行く、山あり谷あり崖あり渓流ありの過酷な道のり。
年老いた(と言っても50代手前ぐらい?)父親は、配達先の人々と会える最後の行脚
若い息子にとっては、配達先の人々に顔を売るデビュー戦

郵便配達は足で歩いて行くことに意味があると説くアナログ世代の父
バスや車を使っても良いじゃない、試したの?と反論する、効率化世代の息子

父を「父さん」と呼んだことのなかった息子、息子に対して素直になれず強がる父親
心の距離が空いた親子

父親の配達ルートを一緒に回ることで、配達先の人々からいかに自分の父が頼りにされていたか、そして父親なりに試行錯誤しながら配達先の人々と向き合っていたことを初めて知る息子。

圧倒的な自然の絵は美しいが、これといった話の起伏がほぼなく、親子の演技は一本調子気味なので、手放しで高評価しにくいところは大いにある。
だけど、親が仕事を引退するかしないかここ数年話している姿を見て、親の老いを少しずつ確実に実感している私としては、こういう親から子へのバトンパスは今の私には無条件に刺さる題材。
父親が息子におんぶされて川を渡るシーンで、息子を肩車しながら祭りに行った思い出のシーンが重なる。こんなん、無条件に涙腺に来ます。

危険な道のりで死にかけたことを秘密にしていた父
要らぬ心配をかけまいとケガしたことを秘密にしていた息子

息子と並んで寝る。家を空けがちだった父、嬉しそうな顔に重なるシーン
父親が配達から帰ってくるごとに成長する息子
息子が生まれたばかりの赤ちゃんだった頃から今までは1人で帰ってきていた道を、2人で帰ってくる
ここの一連のシーンも非常にエモい

まだまだ抜けてるところもある息子、父との配達を経て精悍な顔つきになり、いよいよ1人で配達へ出掛けていく。
戸惑って戻ってきた犬を送り出す父

「あいつになら任せて大丈夫」
そう親に言われることほど、子供として嬉しいことはないのではなかろうか。

この先、バイクに乗ったり時には車を使ったり、きっと息子なりの配達をしていくのだろう。それが世代交代。

自分の代で終わりにしていい。継がなくていい。
父も母もそう言ったけど、何かしらのやり甲斐を感じて続けると腹を括った息子
自分で決めたことなんだから
「愚痴はこぼすな」
「お届け物は細心の注意を払って丁寧に扱え」
「長く続けたいなら、無茶はするな」

日本語吹き替えしかなかったけど、問題なかった。
この先自分の仕事に自信がなくなってつまずいたり、生き方に迷った時、親と喧嘩した時に見返したい作品。
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