ケーティー

レインマンのケーティーのレビュー・感想・評価

レインマン(1988年製作の映画)
4.5
自分の強さは何か?
それをだれのために使うか?
大切なものは何か?
そんなことを温かみをもって語る作品


親の車を内緒で乗り回して拘置所に入れられた過去から、実業家の親を見返すべく野心たっぷりに生きてきた主人公。そんな彼は、自分の力で何でもできると思っており、その切り札は嘘とはったりだ。そんな彼が、いよいよ嘘とはったりの限界を迎え、事業に行き詰まるところから、話はスタートする。

この話のうまさは、主人公が持つ自分の力で生き抜こうとする力を、嘘をつくことという1点に集約して、ラストで主人公が大切な人に嘘をつくのだが、その嘘の使い方や意味、背景が全く異なることで、静かな感動を呼ぶ作品に仕立てていることにあると私は感じた。

嘘という1つのキーワードをもとに、構成・プロットも組み立てられており、ホントと嘘がわからないレイモンドを登場させ、主人公がレイモンドに、お前は騙されていると説教するところから始める。しかし、中盤に持ち前の嘘で乗り切ろうとすると失敗し、本音を話してようやく解決するというエピソードを入れることで、主人公をさりげなく変えるきっかけをつくる。だが、終盤、散々嘘をついてきた主人公が本音を初めて言うのにそれが信用されず、切ないシーンをつくり(ここは周りの大人たちを偽善とすら感じさせる、実際は必ずしもそうではないのだが)、主人公の愛のある嘘、そして、ラストにもっていく。このあたりの構成・展開が見事だ。

また、細かいところだと、遺産相続の結果に動揺する主人公に「僕は××をもらったんだ」と、普通ならこんなにいいものをもらったんだと言わせる逆のシチュエーションで言わせるうまさがあるし、ラストの台詞のやり取りも洒落ている。

さらに、人物相関の作り方もうまく、特に主人公の彼女の使い方がうまい。序盤では、彼女があなたは今までこんなことを話してくれなかったと言わせることで、主人公の人柄をわからせる。また、終盤手前では、ラスベガスのシーンで、彼女とレイモンドの交流を描くことで、主人公とレイモンドの心の交流の変化を想起させるのがうまい。彼女とレイモンドがこれほど自然に交流し、そして、彼女がレイモンドをいとおしむということは、主人公が同じ感情をもっているからこそできるのであり、ここで主人公とレイモンドだと男同士なので、ここまでくっつけたりできないし、今まで散々二人のやり取りをみてきたので、シーンも代わり映えしない。そこで、主人公の彼女を出すことを選択したのがうまい。さらに、レイモンドが気になった女性との落差・差別化もあり、より効果的に主人公の彼女の登場が機能する工夫がなされている。

また、レイモンドのくせの作り方・見せ方もうまく、フーのネタやテレビ裁判が好きという設定も、さりげなく主人公に皮肉の効いた設定になっていて面白い。脚本家のアイデアなのか監督のアイデアなのかわからないが、センスがすごい。