てつこてつ

ピアニストのてつこてつのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
4.1
「愛の傷で死ぬことはない・・」
こんな深い意味を持つ台詞もある、2001年カンヌ映画祭のグランプリ・主演女優・主演男優の三冠を奪取した作品。

ウィーン国立音楽大学院の中年女教授エリカは、表面上は常にストイックで専門としているピアノの教え子たちへの指導も徹底的に厳しく、また、それゆえに定評がある。いまだ独身の彼女は、過保護を超えて独裁的とも言える母親との二人暮らし。

そんなエリカの裏の顔・・夜の猥雑な街のポルノビデオ店に入って、欲求を満たそうとしたり、駐車場で性行為中のカップルの様子を盗み見しているうちに失禁してしまったり・・。

ある日、ピアノ演奏会で出会った青年ワルター。エリカに恋心を抱いた彼は彼女の指導を受けたいと音楽大学の入学試験で、その卓越した技術を披露して合格。そして、積極的にエリカにアプローチをかけてくるのだが・・。

この作品は抑圧された強い性衝動、そしてコンプレックスを抱いた女性の苦悩を生々しく鮮烈に描き切った秀作。日本公開当時も、そのショッキングな性描写が取り上げられたりしたものだが、それよりもヒロインの内面の苦悩をとても見事に描き切れていると思う。

主演女優のイザベル・ユベールの、ある時は能面のように無表情で、そしてある時は抑えきれない激情に駆られた演技は素晴らしいし、ワルター役のブノワ・マジメルの、特にクライマックスでの激しい演技には唸らされる。

ただ、ワルターが一回り以上も年上のエリカに夢中になる過程がもう少し丁寧に描かれていれば、より説得力が増すかと思うのは、ただ単にヨーロッパの恋愛事情と日本のそれとは違うからだけなのだろうか?

いずれにせよ、2時間半という上映時間が全く苦にならない引きこまれるような秀作。
てつこてつ

てつこてつ