てつこてつ

ヘカテ デジタルリマスター版のてつこてつのレビュー・感想・評価

3.8
おお、こんな作品もアマプラで鑑賞できるとは!

この作品、タイトルの音の響きのインパクトのせいか、少年時代に愛読していた「ロードショー」で内容紹介だけは読んでいてずっと記憶には残っていた作品であったので早速鑑賞。

まずは、「エマニュエル夫人」のようなロマンポルノ?風の作品かと勝手に思い込んでいたが、それは大きな勘違い。実にヨーロッパ映画らしい作風で、個人的には見応えが十分にあった。

タイトルのヘカテとは、夜や冥界を司ると言われる古代ギリシャ神話の女神。作品内でローレン・ハットンが演じるファム・ファタール的な役どころを象徴している。

モデル出身の米国女優であるローレン・ハットンは確かに美しく魅力的な役どころではあるが、特に近年の映画作品群で描かれるような分かりやすいファム・ファタール像で無いところが絶妙でいい。

彼女にのめり込んでいく妻帯者のフランス人外交官を演じたベルナール・ジロドーが、これまたハマり役で退廃的な中年男が醸し出す色気が半端ない。

特に本作で感銘を受けたのは、劇中では国名を出していないが、おそらく特徴的なモザイクタイルの内装などからモロッコをロケ地・舞台にしていると思われるが、1930年代当時のフランス植民地支配下の街並みや主人公の外交官が住む館の内装、照明、そしてなんと言ってもファッション。

ヒロイン(役名がクロチルドというのも雰囲気ある!)が取っ替え引っ替えお披露目するファッションも目を惹くが、本作では珍しく男性キャラのファッションのほうがより素晴らしく感じた。

特にベルナール・ジロドーが演じる外交官の「着こなし」…ならぬ「着崩し」具合が実に洒落てる。モロッコシーンでは、ほぼ全シーン真っ白のスーツかジャケット、同じく白のパンツ姿なのだが、ネクタイをかっちり締め上げる事なく絶妙にシャツの上ボタンを開けてネクタイのノット部分を緩めるという装いが最新号の「GQ」とかに掲載されていてもおかしくないほどカッコいい。

どうでもいいことだが、日本人・・というよりアジア人男性が白のスーツを着こなすのは肌の色との兼ね合いから相当ハードルが高い。個人的に有りだなと思えたのは「ラマン/愛人」の褐色に日焼けしたレオン・カーフェイと、そのスタイルの良さから新庄剛志(多分に道化的でもあるが)くらい。

クロチルドも象徴的なシーンで着る美しい身体のラインをより強調するような真っ白でタイトなワンピース姿が一番画になる。

外交官が住む屋敷の美しく特徴的なモザイクタイル、それらの鮮やかな色彩を十分に生かし切った照明、撮影手法も美しい。

正直、ストーリーより、これら美術面で自分は惹かれた作品ではあるが、クライマックスではヨーロッパ映画らしく、あるとんでもないタブーな描写が間接的ではあるが描かれ、その引き金となるクロチルドの行動が現実なのか外交官の妄想なのかを視聴者に委ねる展開は上手いと思った。

外交官がモロッコを去る間際に登場するクロチルドが初めてマニッシュな装いで登場するという暗喩的な演出も効いている。

ちなみにエロ要素を期待すると、そこら辺はこの手の内容の作品にしては驚くほど少なく、またアッサリした描写となるので、それを期待して鑑賞するのは間違い。有名なバルコニーでのシーンも3拍子のワルツに合わせて腰を振っているのが官能的と言うよりむしろ笑えてしまう。

にしても、Filmarkのあらすじが全く違う中国映画の作品の物になっている事、なんとかしてくれないかな。
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