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羊たちの沈黙のkaneのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
3.9
物語が二転三転するわけでもなく、どんでん返しが待っているわけでもないけれど、でも惹きつけられる。言わずもがな、「ハンニバル」という狂人の力だろう。
ダークナイトのジョーカーしかり、セブンのジョン・ドゥしかり、魅力のある悪役(悪役と言い切ってしまうのは失礼かもしれない)がいるだけで、少なくとも観ていられるものになる。彼らは悪びれることを知らないから、こちらの正義が揺らいでしまう。だから、不思議にも共感できてしまうし、格好よく映るのだ。

この作品に関して、どこがダメだったとかいうことはないのだけど、未だに咀嚼しきれないでいる。
実際のところ、「羊たち」は誰だったのだろうか。もちろん、誘拐された少女もそのうちの一人に違わないが、それで片付けてしまっていいのか、しこりが残る。
ここからはいつも通り僕の深読みの域を出ないが、「羊たち」にはバッファロー・ビルも含まれているような気がしてならない。羊たちは屠殺される時、逃げずに、悲鳴をあげる。逃げきれないことを自覚しているのだろう。叫び声をあげるのは、最期のわるあがきであって、生きようとする切望なのかもしれない。そう考えると、バッファロー・ビルも社会的に現在進行形で殺されかけていると捉えることができる。そして、単なる切望によって事件を起こしている。彼のそれも、羊たちの悲鳴であるような気がしてしまう。クラリスは、少女の悲鳴を沈黙させたと同時に、違う意味で、もう一匹の羊も沈黙させているんじゃないか…。
一方、ハンニバルはその群れには属していない。一人だけノールール。人類ではあるが、人間ではない。言うなれば、羊という人間からはみ出した羊飼いだろうか。

作り手が意図したことは、案外単純なことかもしれない。だが、それ以上の何かがあるような、鈍重な雰囲気を持つ作品だった。
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