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苦役列車のkaneのレビュー・感想・評価

苦役列車(2012年製作の映画)
3.8
断っておくと森山未來の演技が個人的なツボであるので、かなり贔屓目に見ている感は否めない。本作でも空虚なろくでなしに見事に人間臭さを付与した森山未來の功績は大きいと思う。

エロと酒に塗れた自堕落な生活を送っている主人公。その日暮らしの生活の中で唯一の楽しみといえば読書だけ。何でもかんでも人に頼ってばかり、同情を買って他人から金を借りるようなろくでなし。
でも、どこか憎めない。それは全身ではないにしろ、少なからず貫多というキャラクターに没入しているからだろう。
普段やりたくても出来ない非道徳的なことを、当然の権利を持っているかのように貫多は平然とやってのける。森山未來の演技があってこそだが、その様がとても清々しい。

だが、ラストシーン直前までは本当にどうしようもない映画だとも思っていた。映画と観客がただ傷を舐め合うだけの馴れ合いで終わってしまうのではないかという危惧があったからである。卑屈になって甘んじている輩がとても嫌いだ。しかしそんな心配は杞憂だった。
物語として完結させるために取って付けたようなラストシーンを、逞しい映像的説得力を持って描いている。やっぱりそうするしかないよなと思わざるを得ない最も気持ちの良い終わり方であるように感じた。
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