河

恐怖の報酬の河のレビュー・感想・評価

恐怖の報酬(1953年製作の映画)
4.2
南アフリカのある町が舞台。油田があり、その油田を支配しているのはアメリカのSOCという企業である。SOCは地元住人を労働者として搾取しているが、地元住人にとって金を得る手段はそれしかない。

その町は砂漠に囲まれており、飛行機でないと出ることができない。しかし、その町に仕事はほとんど存在せず、油田での低賃金の労働以外に金を得る手段がない。人々はその飛行機代を捻出することができない。そして、建設中のビルがそのまま放置されているなど、今後発展していく望みもない。そのため、この町に行き着くことはできても出ることができないという、牢獄のような町となっている。

その油田で火災が起こり、労働者たちが犠牲となる。爆風により鎮火するためニトログリセリンが必要となるが、そのための輸送手段は普通のトラックしかなく、運ぶための道路もほとんど整備されていない。ニトログリセリンは少しの振動でも爆発するため、運ぶのはほとんど自殺行為である。そのため、SOCのその町のトップであるビルは、家族もおらず労働組合にも入っていない日雇い労働者を大金で雇うことを決める。

立候補した中で雇われたのはイタリア出身のルイジ、ドイツ出身のビンバ、そしてフランス出身のジョー、マリオであり、この4人は少しでも揺らしたら死ぬという環境下でニトログリセリンを運ぶことになる。

ルイジは労働により肺の病気にかかっていたことがわかり、労働を続ければ死んでしまう。しかし労働しないと金がなくなってしまう。つまり、この仕事を成功させなければ死ぬことになる。ビンバはナチスによって父親が絞首刑によって殺されており、自身も塩田で働かされる中で死にかけている。死と直面し続けることで、二人とも生きることに固執しないようになっていく。

町では不遜に振る舞っていたジョーは、トラックの運転を通して自分の老いに直面し死に対して恐怖するようになる。それに対して、マリオは運転を通して死と何度も直面することで死への恐怖を失っていき無謀になっていく。ジョーは何度も諦めようとするが、マリオはそれを成功させることに固執するようになる。

その結果としてジョーは足を半分失うという致命傷を負う。そして、故郷であるパリの思い出の場所を思い出そうとするが、そこには何もなかったことを思い出し、死んでいく。金を得てパリへ戻ったとしてもその先に向かう場所はない。

最終的にマリオのみが輸送に成功し、地元の労働者にとってのヒーローとなる。そして、油田の火災の爆発を見ることで、自身が直面していた爆発による死を体験する、もしくはそこからの解放を実感し倒れる。

マリオはニトログリセリンを降ろされたトラックで帰る。常に慎重に運転しないといけなかったトラックを自由に運転できるようになったことで、完全に死への恐怖、振動への恐怖というリミッターが外れてしまったマリオは無謀な運転をし、そのまま崖から落ちて死んでいく。

死と隣合わせの極限状態で、牢獄のような町からの脱出を目指す映画であり、ブレッソンの『抵抗』などと近い脱獄ものの映画となっている。

メロドラマ的に町での生活、それぞれの登場人物の人間性や背景を描く前半から、死と隣合わせの極限状態の後半というギャップが良く、後半においてもその前半の人間的な部分が現れ時間感覚が緩む瞬間がある。その緊張感の張り方、緩め方の加減が非常に良い。特に岩を爆破した後の立ちション。また、前半は会話が多く騒がしいのに対して、後半は緊張感の張り詰めるシーンでは音が削ぎ落とされている。そして、緩むシーンではまた音が騒がしくなる。

特権的な存在があり、それ以外の人々がそれに従うしかなく逃げることもできないという状況の中、油田の火災やニトログリセリンなど、爆発による死が近いものとして存在し続けている。これは登場人物の背景としても出てくる戦争とほとんど同じ感覚なんだろうなと思う。『情婦マノン』に続き、戦後も終わらない戦争状態を描いた映画のように感じた。そしてその爆発の恐怖を観客に体感させる映画でもある。戦争を体感させる映画として、クリストファーノーランが『ダンケルク』で参照したという話もかなりしっくりくる。
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