ヨーク

ぼくの好きな先生のヨークのレビュー・感想・評価

ぼくの好きな先生(2002年製作の映画)
4.2
早稲田松竹でのニコラ・フィリベール3本立て特集の3本目です。
3本目にして俺が観た順番ではラストの作品だが、この『ぼくの好きな先生』も非常に良い映画だった。『すべての些細な事柄』での感想文で書いたようにニコラ・フィリベールは『アダマン号に乗って』が初めてで、それが面白かったからこの3本立ても観ることにしたわけだが、終わってみれば現状では『アダマン号に乗って』が一番つまんなかった…いやつまんなかったという言い方は全く適切ではないが! 『アダマン号に乗って』は余裕で面白い映画でしたが! でも今回の3本立てで観た映画はどれも『アダマン号に乗って』を越えるほどに面白かった作品ばかりで、ニコラ・フィリベールすげぇな! となりましたよ。またほかの作品で特集上映やってほしいな。
んで本作『ぼくの好きな先生』だが、まぁタイトルで大体分かるとは思うが今回は学校のドキュメンタリー映画である。
内容はフランス中部のオーベルニュ地方という中々の田舎にある小学校が本作の舞台なのだが、その学校は児童の数が全員で10数人、多分15人もいなかったんじゃないかなというくらいの小規模な小学校である。一つの教室で4~5歳くらいの幼稚園児から小学校5~6年生くらいまでのクラスメイトが同時に授業を受けている。その学校の教師ロペスは児童たちからも信頼されている先生なのだがもうすぐ定年で教師生活を終えようとしている…という感じの映画ですね。
本作も同日に観た前2作と同じようにフラットな視線で近すぎず遠すぎずな被写体との距離の取り方がちょうどいい。子供たちは子供たちなりにカメラ意識してんだろうけど、非常にリラックスしてる風に撮られていてちょくちょく出てくる名言が面白すぎた。ぱっと思い出せるものでも教師ロペスに対して「私も大きくなったら先生になって子供に命令したい!」とか雨降りな天気に対して「カエルのお祭りだ!」とか、そんな調子で名言のオンパレードが続く。明らかにカメラを意識しているような目線を向けたと思えばカメラなんてお構いなしでギャン泣きしたりもする。撮影外の部分とかでどんな風に子供と接していたらあんなに自然に撮れるんだろうと思ってしまう。なんかもうニコラ・フィリベールの手にかかれば子供が手を洗ってるだけで面白くなってしまうんだよな。ちょっとそれはズルいなとか思ってしまうよ。
あと本作は動物の剥製なんかとは違っていたずら盛りなちびっ子たちがメインの被写体なので様々な出来事が起こって全く退屈したりするような暇はない。ベタなエピソードとしては喧嘩した子供たちの仲裁をするロペス先生とか、内気な子が中学へ進学する不安を丁寧に揉み解すロペス先生みたいな、そんな世界名作劇場の1エピソードでありそうなシーンとかがたくさんあるのである。そういう分かりやすいストーリー性もあるので本作は今回の3本立ての中では一番観やすいのではないだろうかと思う。なんなら劇映画的な見方もできるんじゃないかな。
ただやっぱ本作で面白いのは、色んな意味での生々しくも生き生きとしている子供たちの姿であろう。それも学校だけではなく家庭での姿も描かれていて、その学校での振る舞いと家庭内での振る舞いの違いなんていうのも面白い。九九ができなくてカーチャンに殴られるバカなガキとかはワハハと笑いながら観てしまうのだが、そのままその子が(確か同じ子供だったと思う)トラクターを運転して家の手伝いをしてるシーンとかがスッと挿入されて、ちょっとおぉ…ってなってしまったりもするのだ。おぉ…っていうのはアレだな、ただのバカガキじゃなくてちゃんと家の手伝いもしてんじゃんという意外性でもあり、結構な田舎なのもあって過疎的な社会問題もそれとなく混ぜ込まれているのかなという気もしてしまうわけだ。
教師のロペスも少ないインタビューで語られるところによると田舎の出身で親は苦労したらしいが、十分な教育を受けさせて人生の選択肢を増やしてあげたいという気持ちが強かったらしく、おかげでロペス先生は自ら希望する教職に就けたのだという。本作には楽しそうなちびっ子たちの姿とは対になるような、かなりシビアな、教育というものがどれだけ子供の未来を拓くことができるかという問題が描かれているようにも思った。もちろんそんな大それた問題に対して100分そこそこの映画一本では答えなど出せようもないし、そもそもそこに答えを出そうなどとして本作は作られていないと思うのだが、そこかしこにそういう問題意識が匂ってくるところはあって、それもまた真摯ないい映画だなぁと思った理由でしたね。
子供たちと大自然がとても美しくて観てるだけで楽しい映画だけど、教育っていうのが何のためにあってそれがどこまで子供の力になれるのか、みたいなところもさり気なく描かれていて素晴らしい作品だと思いました。しかしまぁ、とりあえず子供たちおもしれーなー、だけで観てもいいんじゃないですかね。多分だけど、大人が子供を好きになれなければ話にならないよっていうことを描いた映画でもあったのだろう。逆説的に言えば、子供という存在を愛することができて初めて大人となるのかもしれない。
そういうことを考えながら観た映画でしたね。面白かった。上でも書いたので繰り返しになるが、ニコラ・フィリベールの特集はまたやってくれ。早稲田松竹だけじゃなくてもうちょい大きな規模でやってくれたら言うことない。少なくとも俺は観に行くので!
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