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鬼平犯科帳 血闘のヨークのレビュー・感想・評価

鬼平犯科帳 血闘(2024年製作の映画)
3.8
あんまり時代劇の映画は観に行かないし、実際フィルマークスでも時代劇の感想文とかほとんど書いていないと思うんだけど実は時代劇自体は結構好きなんですよね。俺は物心ついた頃から父方の祖父母と同居していたので、小学校から帰ってくると大体夕方の再放送タイムで祖父母が『遠山の金さん』やら『大岡越前』やら『暴れん坊将軍』やら『必殺仕事人』やら『三匹が斬る』やらを見ていて、小学校低学年くらいの頃は俺も一緒にそれらを見るというのが日課のようになっていたのであった。無論それらのラインナップの中には『鬼平犯科帳』もあったので鬼平はちびっ子の頃から慣れ親しんだ作品であった。まぁ、そうは言ってもガキがじいちゃんばあちゃんと一緒にボーっとテレビを見ていただけなので時代劇マニアとかではないし、内容もそんなにハッキリとは覚えていない。ただ鬼平に関しては同じくガキの頃に通っていた床屋にさいとうたかをの漫画版があってそこで結構読んだので特に印象に残っているところはある。
ちなみに俺の鬼平歴はドラマ版→漫画版→アニメ版という順番。好きではあるものの鬼平マニアとかを名乗れないのはこともあろうか原作の池波正太郎版を読んでいないからである。まぁそれくらいの緩い鬼平ファンというところですな。ちなみに印象だけで悪評が付きまとってしまって、未だに「鬼平 アニメ」とかで検索すると、ひどい、とかいうサジェストが出てくるアニメ版なのだがこれマジでかなり出来が良かったので鬼平は好きだけどアニメ版はなぁ…と敬遠している人はぜひ見ていただきたい。一時間のドラマ(CM入れれば正味45~50分くらいだが)を30分のアニメ(正味25分ほど)に圧縮されていたりするので食い足りない部分はあるのだが、殺陣なんかはアニメにしかできないケレン溢れた演出になっていたりするので見どころは十分にある。まぁこの感想文とは関係ないのでアニメ版のプッシュはここまでにしておくが…。
で、本題である本作『鬼平犯科帳 血闘』であるが、面白かったですよ。オタクとかマニアというほどではないそこそこの鬼平好きからしても特に何の不満もない出来であったと思う。とは言っても別に大絶賛で今すぐ観ろ! というほどのものでもなく、何というかいつもの鬼平だったなというだけのものではあるのだが、そこはまぁこっちとしてもいつもの鬼平が観たくて劇場へ行ったというところがあるので願ったりかなったりではある。そういう映画なので斬新な新しい時代劇とか期待せずに今まで何回も見たような安心安定の時代劇を観たいという人になら安心してオススメできる映画でした。
お話は鬼平を知ってる人にはお馴染みの人気エピソードであるおまさのお話である。軽く説明すると主人公の平蔵が若かりし頃に馴染みのあった居酒屋の娘のおまさ(彼女は鬼平をほのかに慕っている)が火付盗賊改方に就任した平蔵の元にやってきて自分を密偵として使ってほしいと請うのだが、密偵は危険な任務であるため平蔵はそれを固辞。だが時を同じくして発生した一家皆殺しという外道働きの強盗事件が起きておまさは平蔵の役に立ちたい一心で独断でその事件に首を突っ込んでいく。だがその事件は平蔵の過去にも関わっていて…というお話ですね。
上でも書いたようにドラマ版や漫画版でも人気のエピソードなのでお話の出来自体は良い。だが演出にしろ脚本にしろ良くも悪くもテレビ時代劇の延長線上でしかなく映画として飛び抜けて優れているというほどでもない。ま、単なる娯楽作品として観るにはちょうどいいのだが大傑作とか名作の類ではないということですね。ただそれがいいなぁと思う映画でもあり、時代劇としての勘所は見事に抑えられていて映画を観終えたあとの満足度は高かった。人情話的な部分やちょっと切ない恋話な部分や軽く笑える部分や、もちろんチャンバラ部分もバランスよく配置されていてこれといった文句はない。良く出来た娯楽映画でしたね。
個人的には10代目松本幸四郎の鬼平はどうだろうかと思っていたが、全然悪くはなかったですね。ただ中村吉右衛門と比べると鬼としての面よりも人としての面が大きく出てる感じで、時には冷酷ささえ感じる警察組織の人間というよりは柔和で話の分かるおじさんという地の平蔵というのを強く感じたな。鬼平といえばの感もある拷問シーンもすごく短かったのだが当代幸四郎の雰囲気には余り合わないからサラッと見せるだけに留められたのかもしれない。主役以外のキャストも最高にハマってるとまではいかなくとも皆さん実力のある役者陣で固められていて無難な感じでしたね。悪役の中村有起哉は素晴らしかった。あと、小野十蔵が柄本時生だったのは続編への布石だろうがちょっとワクワクしましたね。ちなみに幸四郎と染五郎が出るのならサプライズ的に白鸚もカメオ出演あるかなーとか思ってたがそれは無かったですね。高麗屋三世代が揃うところはちょっとだけ観たかったが…。
まぁそんな感じで無難な時代劇映画でした。改めて観るとおまさが人気キャラになるのは分かるなぁということをしみじみ感じましたね。特に女性人気高いだろうな、おまさは。
興行次第ではあるのだろうが、何か如何にも続編というかあわよくばシリーズ化したいという感じの作りになっていたので鬼平好きとしてはぜひ続いてほしいですね。面白かった。
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