zhenli13

バロンのzhenli13のレビュー・感想・評価

バロン(1989年製作の映画)
4.0
ふと思い出してDVDを引っ張り出してきた。奇想に溢れた素晴らしい美術と物語全体に漂うなんとも物哀しい感じが好きで初見以来時々観返している。老いたバロンがやっぱり哀れなんだよな。

この物語のバロンは、目の前の愉しみだったり老いによって意欲を失い緩慢に死んでゆくことに阿ろうとしたり、そのことで「現実」を見ないふりする方へ流れることがたびたびある。まだ十代のこの上なく美しいユマ・サーマンとジョン・ネヴィルのバロンが空中で踊るなか、ワルツのリズムとともにトルコ軍が城門を破ろうとする「現実」をカットバックするシーンが胸を打つ。気力を回復したり失ったりするたびに見た目が若返ったり老いたりするバロンは、薄氷を踏むような存在でもある。
一方で、ジョナサン・プライス演ずる役人に「人が月に行けるわけがないことは現実を見ればわかることだ」といった台詞を言わせて、18世紀には夢想だったことが20世紀には叶ってしまったという「現実」をメタ的に示す。また核兵器や、権力者によって取引操作される戦争、といった「現実」も示す。

美術の素晴らしさ(これは3DCGなんかで再現しても絶対面白くない。でも月のシークエンスで一部初期CGが効果的に使われてる)に比してややテンポが悪く失敗作とも言われるこの入れ子の物語において何ひとつほんものの「現実」などはないが、その想像の塗り重ねの中に、想像が現実を超えること、変えることを信じたい気持ち、想像を持ち続けることを、テリー・ギリアムは必死に貫こうとしているように見える。それは『ドン・キホーテ』の完成まで長い年月続くことになるし、そういうのは恥ずかしげもなく信じたい。

書き割りを正しく使う作品は何をおいても信じたい。
zhenli13

zhenli13