けんたろう

キッドのけんたろうのレビュー・感想・評価

キッド(1921年製作の映画)
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何時の時代も、健康至上主義者こと高慢なるエゴの塊まりが “親切心” とやらを以てのさばりつゞくる社会。


赤ん坊の面倒をとにかく見たがらぬ、倫理観なき大人たち。厄介ごとは御免であると云はんばかりの其の押しつけあひには笑うてしまふ。成るほど倫理観の有らぬ世界は斯くも滑稽か。
又た、強者にビヽり散らかすダサいお父さんの姿にもひどく笑うてしまふ。矢張りチヤツプリンのユウモアは最高である。

因みに私し、観賞前には可成り不思議な気分であつた。チヤツプリンが父子の物語りを遣るといふのが全く驚きだつたのである。何時も彼れが描きたる敗北者が──お、お父さんに?!
観賞前の私しの凡庸なる頭では全く想像も付かぬ画であつた。然しいざ観てみると──本当に吃驚である──チ、チヤツプリンがお父さんに成つてゐる! 其れも、彼の愚かで何うしやうもなき道化の相を一切崩さずに! と思ひきや、父子が故の可笑しさも存分に表出して!

……兎にも角にも、此れ又た素晴らしき物語りである。
無様でありながらも子を想ひつゞくる、ロクデナシの美しき奮闘劇。健康と幸福とを同一視しやがる、愚かで短絡的なる偽善者どもとの果てしなき闘争劇。弱々しきながらも、権力と戦ふ姿が此処に在り。愚かながらも、愛する者の為めに戦ふ姿が此処に在り。
とは云うても、ユウモアが途絶ゆることは決して無し。間抜けで滑稽なるザマには大いに笑はせらるゝも、矢張り胸を打たるゝ珠玉の一作であつた。