茶一郎

7月4日に生まれての茶一郎のレビュー・感想・評価

7月4日に生まれて(1989年製作の映画)
4.3
 多くの戦争映画が戦場という地獄を描く一方、今作はそれと同時に戦場から生きて帰った後の地獄を描く。
 主人公のロン・コビックは、私たちが「アメリカ人」と聞いて真っ先にイメージするような普通のアメリカの若者だった。カトリックの労働階級に生まれ育ち、体育会系マッチョ信仰の下、青春の前半を学生レスリングに捧げた好青年。これを演じるのは、やはり体育会系イケメン、アメリカのスターの代名詞トム・クルーズ。ロンは、戦場で活躍し英雄になるというアメリカン・ドリームを信じ、青春の後半、自己実現をベトナム戦争に捧げる。
 しかし、そこで待っていたのは地獄のようなベトナムの戦争。命からがら生き延び帰ってきたアメリカ、反戦運動真っ只中の世間は、祖国に身を捧げた若者を温かく迎えるどころか冷たくあしらう。
 生きて帰った先も地獄。「『生きて』帰りし物語」1人の少年が戦場で大人になり帰る英雄誕生譚であり、最強の反戦映画の一つ。
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 アメリカ映画が初めてベトナム戦争を描いた『プラトーン』(『地獄の黙示録』は地獄のような製作難で遅延)で大成功を収めたオリヴァー・ストーンが、再びベトナム戦争を描く二作目、そして二度目のアカデミー監督賞を獲得した作品。

 自身も自己実現をベトナム戦争に捧げたオリヴァー・ストーンは、アメリカという国に対して常に愛憎を半ばにしている。アメリカ男児史上、最も愛を込めて星条旗を最も不気味に描く男、いわば星条旗にキスをしながら国旗に火を付け一緒に燃えている、その灰、飛び散る火花が彼の一連の映画だった。
 そんな監督が、今作の主人公であるロン・コビック(実在の人物)に感情移入をしなかった訳がない。オリヴァー・ストーンも、ロンもアメリカを愛しているにも関わらず、アメリカに全く愛されない悲劇の人物だった。オリヴァー・ストーンは(同じくロンもかもしれないが)、多くの若者を騙した祖国、そして戦争の虚しさを非難し続けている、強い愛国心を持ちながら。劇中の不気味に、また同時に気高くはためく星条旗が監督の愛国心として、今作のフィルムに刻まれている。
茶一郎

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