Omizu

エルミタージュ幻想のOmizuのレビュー・感想・評価

エルミタージュ幻想(2002年製作の映画)
4.5
【第55回カンヌ映画祭 コンペティション部門出品作】
ロシアの鬼才ソクーロフによる作品。90分ワンカット、しかも美術品が展示された状態でエルミタージュ美術館を縦横無尽に横断しながらというとんでもない作品。867人の俳優、数百人のエキストラ、オーケストラが3つ、22人の助監督と規格外のスケールで描かれたロシア叙事詩。スタッフも写り込んでしまう可能性を考え王朝風の衣装を身に着けて撮影に臨んだという。

語り手となるのはソクーロフ自身と実在したフランス外交官キュスティーヌ伯爵で、この二人が行く先々で歴史上の人物や出来事に出会う。エカテリーナ二世にニコライ一世、エルミタージュ美術館の歴代館長、盲目の女性…

エルミタージュ美術館が誇る美術品はさることながら膨大で豪華絢爛な衣装は観ているだけでうっとりする。

最後の舞踏会でオーケストラを率いるのは世界的指揮者ワレリー・ゲルギエフ。(プーチンと懇意だったためウクライナ侵攻に伴い国外の地位を全て失ったが)

ロシアを痛烈に批判したというキュスティーヌはロシア文化が欧州の模倣であることを皮肉り続ける。ロシアの歴史叙事詩ではあるが客観的な視点も忘れていないのがソクーロフらしい。

ソクーロフ自身が「一息の間に映画を撮ってしまいたかった」と語るように、映画が終わった瞬間にまるでロシアという国自体が一呼吸したかのような不思議な感慨に誘われる。

パンフレットもエルミタージュ美術館でどの経路を辿って撮影したかという図やそれぞれのシーンの解説が事細かに書いてあり相当読み応えがある。

今後こんな映画ができるとは思えない。不世出の傑作。
Omizu

Omizu