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エルミタージュ幻想のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

エルミタージュ幻想(2002年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

世界遺産のエルミタージュ美術館で、第一級の美術品が陳列されたままの内部を使い、3世紀にわたるロシア近代史を映画史上初の90分ワンカットの手法で描いた実験映画。

現代の映画監督と、美術館内に現れた19世紀のフランス人外交官が、幻想と現実の区別もつかないままエルミタージュ美術館の中をさまよう。
ロココ調建築の贅沢な装飾と明るい色彩の中、第一級の美術品が展示された館内で、ロシア王朝の栄華を見せつけられる。

ただ美術館を巡るだけなのだが、ドキュメンタリーや記録映像とも言えない。
ストーリーらしきものはあるが、起承転結が無く、劇映画とは言えない。
過去と現代とが美術館内で交錯するが、タイムスリップのようなSFとも言えない。
壮大な美術館で歴史上の人物らしき人達が語り合うが、歴史モノとも言えない。
全てが曖昧で、まさに幻想譚。
紹介しようにも、批評しようにも大変困る作品である。

本作は、名前のない画面外の語り手、恐らくは監督の視点で撮影される。
それが美術館に迷い込んだ私たちの視線と重なる。
カメラとともに、フランス人と思しき人物、通称「ヨーロッパ人」が美術品が展示された館内を彷徨う様子を追いかけていく。

館内の美術品を眺めるのは現代の人々。
その中を19世紀の人間「ヨーロッパ人」が美術品の蘊蓄を垂れながら歩いていく。
時代が現代なので移ろう時に合わせてあるのに、時に陳列の統一感の無さに文句を言いながら、時に無宗教な現代人の美術品に対する解釈に呆れながら。
小うるさい知識人のようだが、乱れた髪と皮肉っぽい表情が愛嬌があって面白い。

「ヨーロッパ人」の豊富な知識に「ほほう、そうなのか…」と感心しながら、彼が美術品に感激する時、「確かに凄いなぁ…」と解説者代わりにして、我々見る者も歩みを進めることとなる。
膨大な量のため、あまりゆっくりと見惚れていられないのが残念だが。

次第に美術館内はいつの間にか19世紀の人間で埋め尽くされていく。
「軍服は素晴らしいが、軍人は苦手だ」と語る「ヨーロッパ人」。
美術館は元王宮だったと聞いている。
エレガントな貴族文化に政治と武力は無粋だと感じる彼の気持ちに呼応するかのように、館内を彷徨う語り手と「ヨーロッパ人」は、舞台劇や式典、ニコライ2世の家族との晩餐、絢爛豪華な舞踏会などのさまざまな場面に遭遇する。
豪華な美術品と相まって、ロマノフ王朝の栄華が感じ取れる。

ラスト、大広間での宴が終わった後、大勢の人々が大階段を下りて行くシーンは圧巻。
豪華な衣装を身にまとった人ごみの中をゆっくりと移動するカメラの視線。
世俗的な会話もちらほらと聞こえ、まるで自分も貴族になったような贅沢な時間を味わえる。

まさに空間と美術を楽しむ映画。
美術館や博物館に行った時、作品を見て、そのテーマや作者の時代に想いを馳せる。
それを煌びやかに視覚化した作品と言えるだろう。
まさに体感する映画である。
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