めしいらず

水の中のナイフのめしいらずのレビュー・感想・評価

水の中のナイフ(1962年製作の映画)
4.3
週末の休暇で湖に向かう倦怠期の中年夫婦が、途中で拾ったヒッチハイクの青年と三人でヨットで出帆する。夫は何かにつけて青年を子供扱いにしておちょくり、青年は彼の高圧的な態度に苛立ち粋がったり反発したり。二人の間にちょっとした緊張が走る度に妻が間を取り持つ。勇敢さ、財力、知力、腕っぷし。何かにつけて相手より優位性を誇示したい男の性。己の男性性を妻にアピールしているのだ。ピリついたり和んだりを繰り返しながらヨットは湖上を航行していく。夫の意地悪な態度は青年の若さへの嫉妬と如何ともし難い老いの自覚、何かと彼を庇い立てする妻への苛立ちからだろう。若さしか立ち向かう術のない青年がナイフを無用にチラつかせるのはひ弱な自分を強く見せて妻に一人前の男のように見られたいからだろう。ナイフ投げでどちらがより強く的に突き立てられるかを競うシーンなど妻に対する男たちのあからさまな性的アピールのたわいなさだ。男は斯様に何かにつけて競争し順位づけしたがる。そして夫の行き過ぎた挑発によって二人はもみ合いとなり青年が湖に転落し消息を絶つ。妻から本性の図星を指され詰られた夫はヨットから逃走し、一方船に戻った青年と妻は関係を持つ。再び合流した夫と妻は警察へ向かいながら詫び合い、夫婦の形は一応保たれる。三叉路のラストが意味深長である。
ポランスキーのデビュー作にして既に成熟しきった大人の心理サスペンス劇。緻密な映像設計と淫靡なムード、気だるげなジャズの響きが実にクール。湖上を歩くシーンの感覚美も忘れ得ぬ。
再鑑賞。
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