カルダモン

ヘンリーのカルダモンのレビュー・感想・評価

ヘンリー(1986年製作の映画)
4.5
ハンニバル・レクターのモデルとしても知られる殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスの日常。もはやどのような手口で、などと描かれることもなく、さっきまで会話していたかと思うと次のカットでは転がっている。淡々と繰り返される殺人に脈絡なんてものはなく、いたって普通に営まれていく毎日が、何の感情も湧かないままに通り過ぎていく。彼の振る舞いが普通だからこそ理解不能で恐ろしい。溝の深さをどのように埋めれば良いのか皆目見当もつかない。そもそも埋める溝があるのかどうかさえわからない。

同居人オーティスとその妹であるベッキーとの三角形。共同生活の中で徐々に綻び始める人間関係が生々しく、ありふれたリアルさが描かれる。ヘンリーは幼少期に母親から地獄のような虐待を受けており、特に性的虐待に対しては大きなトラウマを抱えていたのだそうだが、人間を作るのは人間だという当たり前のことがとても残酷。唯一心を開きかけたベッキーに対してさえ、ヘンリーはありのままの自分としてしか接することができなかった。

言いようのない侘しさと虚しさ。そこには涙や苦痛や怒りもなくて、やりきれなさだけが残る。