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悲愁物語のzhenli13のレビュー・感想・評価

悲愁物語(1977年製作の映画)
4.5
これはめちゃくちゃに面白い!!十年間干されての復帰第一作がこれ…すごすぎる。確信犯すぎる。しかもいちおう松竹。今こんなにふざけられる人って、そして今これに金出せる人っているんだろうか。

確実に言えるのは鈴木清順がハナからゴルフスポ根映画を撮る気が無かったということだろうけど(なので鬼コーチじいさん役佐野周二は途中で消える)清順美学に全振りしながら構成はきちんとしている。たまたま出くわしてしまった狂気に白木葉子が取り込まれていくプロセスの描写としては至極手堅い構成なんじゃないか。それは群衆による狂気でもある。
主婦(70年代の主婦ってなんて主婦然としているんだろう)の集団が子連れで人んち勝手に上がり込み、しまいには寄ってたかって本人踏みしだいて裸にするって『蝿の王』ですか『ウィッカーマン』ですか。それを扇動する江波杏子が主役ではないかというくらいの全狂気を担ってる。そのラストを持っていく弟くん…発砲ショットにノワールをみた。
この後に『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎坐』と『夢二』の大正三部作が続くのが納得できる、今やれること全部やったみたいな作品。

手元にある「ユリイカ 特集 鈴木清順」(青土社)は『夢二』公開にあわせたもので1991年発行とある。山根貞男によるインタビューで原田芳雄は『悲愁物語』に言及している。それを読んだかぎりでもめちゃくちゃで、観る意味があるのかわからないまま今まで放置してた。U-NEXTありがとう!
原田芳雄曰く〈ゴルフそのものを全然知らない者が集まってつくったゴルフ映画〉顔から腹まで赤い線を引いた姿で旗ぶん回しながらゴルフ場を走るシーンは原田本人の案で、シンポジウムであれはどういう意味かと質問され「原田さんのお考えでやったことですので原田さんにお聞きください」と監督(笑)
また金井美恵子は『悲愁物語』について〈十年間映画を撮れなかった鈴木清順と、おそらく長いこと映画を撮れなかった大和屋竺の二人が、長いヒマな時間をテレビのモーニング・ショーを見て過ごした結果、テレビへの憎悪によって作られた恐怖映画である。〉と記している。最も合点のいく評である。
このユリイカ読み直そう。
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