亘

別離の亘のレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
4.6
政情不安定なイラン。娘の将来を考えシミンは国外への移住を考えるが、夫ナデルは父親の介護を理由に移住に反対する。シミンは家を出るがその間義父の介護士が流産する事件が起こる。夫ナデルが殺人罪に問われたが、その後状況が二転三転する。

一つの流産事件をめぐるサスペンスでありながらイランの抱える失業問題や宗教問題、夫婦の問題などを描いた作品。例えばアメリカが舞台だったら単に派手な離婚劇・法廷劇を繰り広げて終わるかもしれない。それでもイランでは、宗教をベースに考え方が日本とか欧米とは違っていて人々がどこかリミッターを設けているような気がする。とはいえ宗教を介して利己心は比較的制御されていて、見苦しい争いは防止されているように見える。

皆が誰か他者を想っているからこそ、誰一人決定的な悪人がいない。それが今作の問題を複雑にしている点。皆誰かを想っていて自分が正しいと考えているけど、子供たちの純粋な目から鋭い指摘が入って自らの中の悪に気付く。シミンの家出が悪いようだけどそれは娘を想ってこそだし、容疑者ナデルは父のことを想っている。ラジエーも娘のことを想ってるし、その夫は妻のことを助けようとしている。誰かを想うあまり互いに傷つけあって後戻りできない状況に陥ってしまう。

中盤まで容疑者:ナデル、被害者:ラジエーで激しく張り合う状況だったのに終盤突然状況が変わる。一時ナデル不利になるかと思いきやラジエーがシミンに告白をする。ラジエーの告白は、背景にイスラム社会での女性の弱さがあるようで、イランの抱える問題を映している。誰も完全には救われない状況でも自分の想う相手のために争い傷つけ合う姿は健気であるとともにどこか虚しかった。ラストシーン、両親を傷つけたくないテルメーの健気な姿と争いで疲弊し別離する夫婦の姿は対照的だった。

印象に残ったシーン:シミンとナデルが娘について喧嘩するシーン。ラジエーがシミンに告白するシーン。ラジエーが誓いを拒むシーン。夫婦が別離するラストシーン。
亘