離婚の危機に直面した夫婦と、信心深い夫婦が複雑に絡み合う事件を描く。
「妻」が家を出なければ、
「夫」がついカッとならなければ、
「家政婦」が外出しなければ、
「家政婦の夫」が失業中でなければ…
「タラレバ」を言うとキリがない。あんたが、私が、お前が、あいつが…。怒りと不満が連鎖し、そして衝突。
介護、宗教、格差など、イランの社会問題が浮き彫りにされるが、それらを全て取り除いても世界共通のテーマがある。
学校、職場、家庭、国、どこにでも衝突はあり、互いに正義を主張する。相田みつをの言葉にあるようにセトモノとセトモノがぶつかれば割れてしまう。どちらかが緩衝材になればいいのにそれがなかなか出来ない。
とにかく登場人物にイラつきっぱなしで誰も好きになれない。しかし脚本と演出の凄さに唸るばかり…。
BGMを排除した口論は本気でぶつかり合っているようにリアルで、隠された真実と嘘によって上質なサスペンスに仕上がっている。
視点の切り替えで善悪がひっくり返り、その間にいる子供の選択は観客の解釈に委ねられる。
冒頭から「介護施設に入れれば全てがうまくいくのに」とずっと思っていたが、それはイランについて何も知らない安易な考えだった。
調べてみると、イランでは老人介護の施設が非常に少なく、介護は家族の役割であるという社会通念が強いらしい。
イスラム教の聖典であるコーラン、その「誓いの重さ」に驚いた。