めしいらず

自転車泥棒のめしいらずのレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
3.7
人生において都合良い時は続かない一方で、都合悪いことはいくらでも続き得る皮肉。それは苦境下でその人の中の悪しき部分が表面化し易くなるからであり、その所為で周囲から見放され易くなるからである。視野狭窄に陥った時に人は思い込みによって間違いを犯しがちだ。敗戦国の厳しい現実。皆が貧困に喘いだこの時代だからとかく自分本位に傾き易い。この主人公は己が愚鈍さをさておき周りの者を責めて止まずどんどん孤立を深めていく。追い詰められて悪に傾きそうになりながら行きつ戻りつする心の葛藤のリアリティ。でも彼の心は強くなかった。思い余って遂に悪事に手を染め、すぐさま捕まり、袋叩きに遭ってしまう。それを幼い息子の視点から見る苛酷さ。子供にとって絶対的存在であるはずの父親の絶対に見たくないみじめな姿はあまりにもショックが大き過ぎる。きっとこの子は終生忘れ得ぬ心傷を負っただろう。いたたまれない。それでも父に寄り添いその手を握る健気。この家族の暗雲は依然として垂れ込めたままだ。
フォロワーさんに触発され30年以上ぶりに再鑑賞。
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