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こうのとり、たちずさんでのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

こうのとり、たちずさんで(1991年製作の映画)
4.0
最後にテオ監督の巻末インタビュー観てしまって、監督は国境を外的に捉えてはいない、内的な心の壁や環境への違和感を描いたとあったけど、私はやはり国境いが複雑なギリシャや近隣諸国の歴史的な難民問題がテーマだと思った。

海に囲まれた日本に住んでいると、隣国と言っても海を渡った遠い彼方で、日ごろ国の境を意識することもなければ、稀に海を渡ってくる人もいるが大挙して移民がたどり着く国でもない。だからなかなか移民、難民問題の視点が定まらなかった。拒絶/受け入れの二択ではないことしか。

冒頭にアジアからの難民ボートの話があったが、ギリシャにとってのアジアはシリア難民のことだろう。

隣国アルバニアから散り散りになった家族や一族が、いつか一つになり、同じ地で暮らす夢を見ていた。

あんなに悲しい花嫁と結婚式のシーンを初めて観た。まるでお葬式のようだった。

失踪した政治家はかつて移民として自分だけがこちら側に来てしまい、残してきた家族の元に戻らなければ、という思いがわき上がったのか。

あるいは、難民問題を語っているうちに、それぞれの難民の引き離された家族に思いを寄せ、自ら寄り添う道を選んだのか。

今でもさらに拡大しているギリシャの難民問題を遠い島国の私には語ることはできないと思わせられたシリアスなテーマだった。誰もが多くを語らず、政治的背景を見せず、断片的に詩的に家族の物語を描いているから余計に胸が痛む。

難民の数だけ家族の物語がある。
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