しんご

容疑者Xの献身のしんごのレビュー・感想・評価

容疑者Xの献身(2008年製作の映画)
3.8
主演の福山雅治曰く「大人が真剣に作った究極の愛の話」。ドラマ版での軽快なテーマ「vs.~知覚と快楽の螺旋~」が劇中で鳴ることは一切なく、とにかく渋く切ないストーリーが展開される。

研究一筋で机にかじりつく様子が「ダルマ」とあだ名される石神は細い目のずんぐりした体型でとても天才には見えない風貌として原作では描かれている。言うなれば肥満の温水洋一のようなこの男はとにかく不遇で、病気の親のため研究の道を諦め高校教師の職に就く。教職の傍ら執筆した論文は黙殺され学者として大成する道を完全に絶たれた彼は人生に深く絶望していた。堤真一はそんな原作の石神に比べればやはり隠し切れない格好良さがあったが、額を剃り一部を白髪にすることで石神の風貌に対応。さらに、暗く生気の抜けた芝居で雰囲気までも彼に寄せていたのはさすがにプロの役者。

そんな堤版石神の花岡親子に対する「献身」はまさに壮絶。「推理小説として邪道ではないか?」と各方面で物議まで醸した驚愕のトリックを考案した石神の怪物じみた論理を支えているのが花岡親子に対する思慕の念であったこと、およびそのトリックを実行する石神が常に孤高であったのがとにかく切なすぎる。

それを踏まえてのあのラストシーンは原作の感動を見事に再現。論理や計算を越えた人間の愛ゆえの行動に石神のみならず自分も泣けたよ。エンドロールの「最愛」は本作のための書き下ろしだそうで、石神の愛を哀しく演出していた。

もっとも、石神と湯川が雪山登山するシーンは蛇足と感じた。映画ならではの視覚性を狙ったあのシーンは原作に無かったし、アウトドアな趣味が石神の孤高さに合わないように感じられたから。
しんご

しんご