Melko

アマデウス ディレクターズ・カットのMelkoのレビュー・感想・評価

3.9
すごい物を見てしまった…
人間の業、嫉妬、執着、憧憬、軽忽…
2人の人間を軸に、これでもかとそれが煮詰められ、まざまざと見せつけられた。
冒頭、「ダーーン!!!」という音から始まる、ドロドロの人間ドラマ。
圧巻。

小さい頃偉人伝の漫画で見たモーツァルトってこんなんだったかな、、イメージがガラッと変わった。。

音楽の神に愛され、天賦の才能をもって生まれたが、絶望的に世渡り下手なモーツァルト。
音楽を誰よりも愛し真摯なのに、凡庸な才能しかなく、嫉妬に狂って性格が曲がっていくサリエリ。
2人は正反対。
音楽の新しい可能性と自分の才能を信じ、突き進みたい破天荒な若者と、
才能の凡庸さに打ちひしがれ、嫉妬に狂う中年男。
でも2人にはただ一つ共通してることがあって、それは、「音楽を愛している」ということ。そのアプローチとアウトプットの仕方が違うだけで、2人とも本質は同じ。
なのに、湯水のようにアイデアが湧き、書く前から完成形が頭にある「天才」と、
優等生な音作りはできるが、苦しみ悩みぬき、神に祈りまくってやっと一曲書ける「凡人」の違いたるや…
サリエリは、出会った時からモーツァルトの才能を見抜き、信じて疑わず、全ての公演を鑑賞した。誰よりもモーツァルトのファンだった。だけど、誰よりもモーツァルトの才能を妬み、欲し、利用し陥れた。誰よりもモーツァルトに死んでほしかった。
どんな心境なんだろう、それって。
「大好きだけど大嫌い」みたいな。。
でもきっと、終盤の共同作業でぐうの音も出ないほどの才能を見せつけられて、永遠に勝てないと悟っただろうな、サリエリ。

奥さんとか、信じてくれた人が周りにいたはずなのになあ、、どんな人生だったのだろう。父親の言いなりで音楽の神童。猿回しの猿から出発したけど、彼はただ、自分の作った音楽で人に喜んで欲しかっただけなんだよな。それが宮廷オペラだろうと、大衆オペラだろうと。

ディレクターズカット版で追加になったシーン。めちゃくちゃサリエリに嫌悪感を抱かせる。嫉妬ジジイの天才への嫉妬心が、標的以外に矛先向いたシーン。見るのが辛い。

身に降りかかる不幸の黒幕を最後まで信じたモーツァルト。どれだけ頑張っても、誰にも言ってもらえなかった
「You are the best composer known to me」を、サリエリから言われるとは、なんたる皮肉。
生き延びたけど、作った音楽が忘れ去られていく切なさと屈辱。
死んでしまったけど、作った音楽が時代を超えて語り継がれていく誉と栄光。

180分あっとゆうまの人間ドラマだった。クラシックもオペラも詳しくないけど楽しめた。でも、歴史と彼らの音楽への知識がもっとあれば、もっと楽しめたんだろうなあ。こうゆうところで、学生時代に勉強頑張らなかったことを悔いるとは…
音楽だけではなく、役者もセットも超一流で、荘厳。劇場で指揮棒を振るモーツァルトのカットは、何回も出てくるけどその都度見入ってしまう。完璧な角度のカット。

「ヒャハハハハ…」
モーツァルトの笑い声が耳に残る。
モーツァルトだし、嫁には「ウルフガング」をもじってヴォルフィーって呼ばれてたし、タイトルがミドルネームの「アマデウス」なのが不思議だったけど、意味が
「神に愛される」って、、音楽の神には愛されたのだろうが、幸福の女神に愛されたのかどうか、、
人生で一度、見るべき映画。
Melko

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