ウサミ

フローズン・リバーのウサミのレビュー・感想・評価

フローズン・リバー(2008年製作の映画)
4.3
氷の世界、アメリカとカナダの国境、深いシワが刻まれた辛苦の表情を浮かべる女性。

映画のファーストシーンって大事ですよね。
それがワクワクドキドキ楽しいものなのか、ネガティブなイメージを与えるものなのか、不可解なものなのか。
観客が対峙する最初の映像、観客に与える最初のイメージで、映画の印象が決定づけられると言っても過言ではありません。
本作は、それでいうと、ファーストシーンから重苦しく、冷たい印象を強く与えます。

本作の重苦しさを生み出すテーマは、ギャンブル依存症で金を使い潰したあげく蒸発した夫を持つ女性の苦闘と、夫に先立たれ子供を義母に剥奪されたインディアンの女性の苦闘、二つの苦闘によって描かれます。

家族を守るため。子供を守るため。
本作は、2人の女性が、犯罪に手を染めてしまう物語です。

本作のカメラワークは、とても不安定で、画質も決して美しいとはいえません。
しかし、2人の女性の顔にクローズアップしたカットを多用することも相まって、人間の感情というものを深く表現することに一役買っています。
苛立ち、怒り、苦しみ、孤独…
それらの多くはネガティブなものであります。だからこそ、艱難辛苦に満ちた社会で泥臭く生きようとする姿に、心が打たれてしまうのです。

犯罪の道に手を染める女性の姿を描くわけですから、決して温かなヒューマンドラマとしては括りきれません。
しかし、本作は、それでも、冷たい画面の中に人と人との温かな繋がりと、おもいやりを覗かせるのです。
それは、偽善ではなく、厳しい環境の中で、助け合い生きる人の本能の一つ、人を動物ではなく人たらしめるものである、そう感じることができるのです。

辛い画面の中にそういったギャップが見えるからこそ、このような過酷な環境で生きざるを得ない女性たちの因果の居所を、制度や歴史、政治にあるのではないか?と、スムーズに考えることができるのです。

本作は、よく見ると、ところどころに風刺や皮肉が込められています。しかし、それは決してプロパガンダや左翼的思想に傾倒したものではありません。
ただの人間の善悪のみでは片づけられない問題が、当たり前に社会のどこかで起きているという事実を、観客の脳裏に刻むのではなく、いつしか気づかせるという、とてもスマートな立ち回りをこなしています。

100分未満の作品ながら、こころが打たれ、とても深いレイヤーで楽しませてくれた、叙情的な素晴らしい作品でした。
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