たにたに

アーティストのたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

アーティスト(2011年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【無声映画からトーキー映画への転換期。その中で苦悩する1人のスターがいた。】
2022年9本目

2011年製作のモノクロ無声映画。

無声映画に対する批判的な声を主題材とし、ある1人の無声映画役者の時代遅れ感や世代交代の切なさと希望を見出す。

活躍→衰退→絶望→希望
という、起承転結のはっきとりとした非常にわかりやすい展開を踏む。
そのため、多くの人の心を掴んだのだろう。アカデミー賞作品賞に納得。


◉負け犬と天才犬
無声映画スターのヴァレンティンと、
その愛犬ジャックの素晴らしきコンビネーション。
いつもそばに寄り添い、人間の感情を理解しているかのように立ち回る。
作中劇の中でも、見事な演技をこなし、負け犬と化したご主人の身を守ろうとするその姿は天才の他に言葉が見つからない。
ジャックにアカデミー賞を、という運動もあったそうだが、我々が期待していることを見事にこなす、こんな天才犬は見たことない。

◉音への恐怖
ペピーミラーという、新たなるスター女優によって人々の興味はトーキー映画へと移った。無声映画の大スター、ヴァレンティンはトーキー映画はお遊びだと批判し、自身の道を極め再び注目されることに自信を持っていた。しかし、彼の新作映画は大失敗に終わり、自分の時代は終わったと悟る。
そんな彼が陥るのは、"音"に対する恐怖であった。コップを置く音、歩くとブーツから音が出る、愛犬の鳴き声、普通に生きていれば当たり前に聞こえてくる音を、彼は聞こえてはいけないものとして不安を感じる。
序盤からほぼ無音(BGM除く)で展開される今作において、突如聞こえる物音に、観ている我々も感情が動く瞬間となる。
ヴァレンティンが、無声映画スターとして、アーティストという無声映画に出演しているのを理解しているというメタ的な表現は、度肝を抜かれた。

そして、この音に対する彼の意識は最大限にまで膨れ上がり、"人々の声"をも恐怖と捉えるようになる。
自分を批判する声だけでなく、励ます言葉も、日常会話も、他人の口から音が発されていることに自身の存在意義の不確定さを認識してしまう。

◉BANG!
そんな彼が拳銃を口に咥えて自死を決意する。
それを察知して、慣れない運転で助けに向かうペピー。
初めて目前に現れる会話以外の字幕表示。
この4文字のアルファベッドに対して、我々観客は最悪な事態を想像したに違いない。
しかし、実際はペピーのクラッシュ音。

無声映画の衰退を題材とする今作で、我々は初めて騙されることになる。
つまり、文字だけで表現する無声映画にも想像を掻き立てる無限の可能性があることを、そして素晴らしさを持ち合わせているということを。


ペピーの性的嗜好が少し気になるところではありますが、そこはご愛嬌。
ヴァレンティンを演じたジャン・デュジャルダンのファンになりました。
たにたに

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