アニマル泉

東京戦争戦後秘話 映画で遺書を残して死んだ男の物語のアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.3
大島渚は常にオープンだ。本作は若者たちとの共同製作である。大島は既成のシステムを破壊して、オープンに映画界以外の才能と集団で新しい映画作りを模索してきた。当時の大島組は特異なパルチザンと化している。ちょうど世界ではゴダールがジガ・ヴェルトフ集団で集団製作した時期と重なる。
「再現」が主題のフィルムだ。遺書として撮られたフィルムの風景を探して撮影が再現されていく。「絞死刑」でRが犯行を再現してRに到達したように、本作では元木象一(後藤和夫)は「あいつ」のフィルムを再現してあいつは他ならぬ自分だったことに到達する。そして大島作品では再現が達成されると死が待っている。元木の再撮影を泰子(岩崎恵美子)がことごとく邪魔をする。泰子は元木が再現してしまうと死が待っているのを知っているかのようだ。そのためにあわや交通事故になりかけたり、殴られたり、そして車中で輪姦される。犯される泰子の見た目の逆さまの高速道路の移動ショットが痛々しい。「風景」といえば本作は若松孝二の「略称・連続射殺魔」への布石になっている。泰子の裸体がスクリーンになる。風景が投影される。人間の裸体と風景の混在は本作の白眉のカットである。
「走る」映画である。トップカットから手持ちカメラで荒々しく疾走する。
「落下」が主題となっている。飛び降りが3回描かれる。大島が特異なのは落下する過程を描かない。いきなり地面に転がっている。映画においては縦の運動を撮影するのが物理的に難しい。編集で落下をイメージする何らかのカットを挿入するか、スイッシュパンダウンするか、ロングショットで人形を落とすか、とにかく落下する運動に映画は苦手である。それだからだろうか?大島は落下を描かない。しかし、いきなり落ちてる、このジャンプカットはあまり見たことがない。
本作では「高さ」が強調されている。「階段」や「坂」が頻出する。
「転がる」のも大島の主題だ。本作の草だらけになりながら元木と泰子が転がる場面は鮮烈だ。
大島の「円」は本作ではフィルムである。そして本作の構造自体が冒頭とラストが止揚される円環になっている。
アップが多い。「少年」の鮮烈なアップが本作でも継続している。ワイプするショットも多い。車のワイプだけを延々と撮り続けるショットは何なのだろうか?
本作は「少年」と「儀式」の間に位置する。本作には「少年」まで頻出した日の丸はもはや出現しない。国家や犯罪や差別というテーマではなく撮ることの意味がテーマになっている。極私的な「撮影する」ことと実存が追求される。そして「死」と「自死」が色濃くなってくる。そのうえで次作の「儀式」で大島は日本の戦後25年の総括を試みることになる。
東京戰爭とは1969年の羽田闘争を指す。その戦後である1970年の4.28沖縄デーの闘争が本作の舞台になっている。
音楽は武満徹。脚本に原將人が参加している。白黒スタンダード。
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