アニマル泉

瞳をとじてのアニマル泉のレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.5
ビクトル・エリセの31年ぶりの長編第4作。題名どおり「瞳」の映画だ。アップの映画である。特に眼球の瞳孔が大きい役者が揃っている。黒目が大きい。しかも全ての瞳孔にキッチリと照明のキャッチアイが入っているのが驚きだ。そしていきなりのクローズアップ。プラド美術館の場面のアナ(アナ・トレント)のいきなりのクローズアップ、ロラ(ソレダ・ビジャミル)と暖炉の火を前に亡くなった息子の話をするミゲル(マノロ・ソロ)のクローズアップ、ミゲルから自分の名前を聞かされた時のフリオ(ホセ・コロナド)のクローズアップ、劇中劇でチャオ(ベネシア・フランスコ)が扇ごしに名乗るクローズアップ、その衝撃に圧倒される。本作の前半はミゲルがフリオの消息を追って様々な人と会う「会話劇」の積み重ねである。二人の会話の切返しで描かれていく。後半、フリオが見つかってからは一転して「視線劇」になる。会話が極端に少なくなり、お互いが目線で探り会う。食堂でフリオが本人か探るミゲルやシスターたちの視線の交わし合いがスリリングだ。そして「並ぶこと」が頻出する。並んだミゲルとフリオがペンキを塗る姿を、翻る洗濯物ごしにトラックインするショットが美しい。二人が並んでロープを結びあうツーショットが愛おしい。波を見つめて黙って並ぶ二人のバックショットが力強い。並んで同じことをするアクションが、セリフによる表現を凌駕してしまうのが映画的だ。
終盤は映画の上映だ。あの「ミツバチのささやき」の忘れがたい巡回上映会を彷彿とさせる。この場面では劇中映画、それを見ているフリオ、フリオの反応を探るミゲルやアナたち、スクリーンを介したそれぞれの面白い視線劇になる。フリオが見つめる劇中映画のフリオとチャオ、フリオの横で見ている娘のアナ、上映会を仕掛けてフリオの変化を注視するミゲル。父と娘という関係が劇中映画によってダブルミーニングになり、スクリーンを見るフリオ、フリオを見るアナとミゲルの視線が複雑に交わされていく。そして劇中映画でフェラン(ホセ・マリア・ボウ)が息絶えるとなんとフリオとチャオがカメラ目線のツーアップになる。そして客席のミゲルもカメラ目線になる。さらに客席で映画を見つめていたフリオもカメラ目線になり、自ら瞳を閉じる。強烈で凶暴な視線劇の幕切れだ。
「会話劇」「並んで同じことをする」「視線劇」の他に本作の人物たちのコミュニケーションが「歌」だ。本作は要所要所で歌われる。ミゲルがギターを弾きながら歌う、ハワード・ホークス監督の「リオ・ブラボー」のディーン・マーチンの劇中歌「ライフルと愛馬」が印象的だ。
本作は「海」の映画である。
そして「雨」の映画でもある。
今までのエリセ作品には珍しい。
映画愛もエリセらしく、「リオ・ブラボー」の他にもニコラス・レイの「夜の人々」のポスター、カール・ドライヤーの「奇跡」への言及、リュミール兄弟の「ラ・シオタ駅の列車の到着」のパラパラ漫画がある。
カラービスタ。
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