しんご

パプリカのしんごのレビュー・感想・評価

パプリカ(2006年製作の映画)
4.0
昔枕の下に絵本の1ページを挟むとそのシーンの夢を見ることができると言われてアラジンの絵本を挟んだことがある。願望したのはベタに空を飛び回るシーン。その夢を見ることは遂にはなかったけど。

本作では「DCミニ」という夢を共有する装置が登場する。その装置を盗み人の夢に侵入してその人の精神を崩壊させる者とそれを阻止する夢探偵パプリカの対決がメインストーリー。人の潜在意識に潜入するプロットはクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」(10)に先駆けるものでありながら、その中身はかなりカオスでアーティスティックな様相を呈する。

冒頭の空を飛びたい気持ちだって実際は空を飛べないからそう空想するのであって、その点で夢は現実とリンクした「聖域」とも言える。そんな純粋な「願望」に留まらず人に対する「嫉妬」、世界に対する「野望」と夢は果てないし、その過程で歪んで醜悪なモノへと姿を変えていく。その「醜悪さ」を非常に秀逸に描いている点で本作は一度観たら忘れられない印象を観客に与える。

「オセアニアじゃ常識なんだよ!」「三角定規の肝臓」と常人では考えられない語彙を撒き散らして窓から飛ぶ島所長の狂い方で心を完全に鷲掴みにされてからの終盤、もはや何が夢で何が現実か分からない世界観は壮大の極み。その世界を演出する極彩色がやたら気味悪く映ってくるけどこれがまたクセになる。

これが今敏監督の遺作なったのが本当に悔やまれる。
しんご

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